写真展のテーマは、狭山丘陵というアニミズムに満ちた森の多面的な姿である。狭山丘陵は、新石器時代や縄文時代の遺跡が散在していて、人間の歴史が刻まれている場所である。同時に、狭山丘陵の東西を通る荒川と多摩川の分水嶺があり、北方系や南方系の樹木が混在する場所でもある。激減しているものの、古代にルーツがある希少生物も生き延びている。

アニミズムの世界観とは、石や樹にも霊魂・アニマ（動かす力）が宿るという考え方である。里山から丘陵に深く分け入ると、風に揺れる木々の動き、鳥の声、水の音や匂い、石や土の温もりなど、呼吸するアニミズム世界が肌で感じられる。そこには森と沼に棲むモノ同士の対話だけでなく、モノと人間との対話も可能な世界がある。

山襞から滲み出る水やあちこちで湧き出る水たまりとせせらぎ。太陽、月、台風一過で踊る蜂と花、上から降ってきたお喋りカマキリ、一心不乱に網掛けをするクモ、月に慰められて眠るカモ—―沼地と森の中では、生き物だけでなく、風、光、音、水、土も写してほしいと言っている。森にいるモノたちの声を聴き、樹々などが送ってくれるシグナルを受け取って、私はただカメラのシャッターを押すのみである。

（出展枚数　カラー60枚）

高橋美保 写真展「狭山丘陵―樹々が物語るとき」
会期：2023年11月2日（木）～11月8日（水）
　　　10：00～18：00（最終日15：00まで）
会場：アイデムフォトギャラリー「シリウス」（https://www.photo-sirius.net）
　　　東京都新宿区新宿1-4-10 アイデム本社ビル2F

会期中、ギャラリートークが開催されます。詳細は、ギャラリー公式サイト 写真展情報掲載ページをご覧ください。