ロバート・フランク展 ー もう一度、写真の話をしないか。

ロバート・フランク展 ー もう一度、写真の話をしないか。
ロバート・フランク
2019/06/29 ~ 2019/09/23
清里フォトアートミュージアム

写真家ロバート・フランクは、世界で最も重要な写真家の一人として、多くの同世代および後進の写真家に影響を与え、そして現在も、世代を問わず熱烈に支持されている写真家です。

1947年、フランクは、23歳でスイスからアメリカ・ニューヨークへ移住し、写真家としてのキャリアをスタートさせます。その後、約15年間集中的に写真を撮影しました。生地スイスからニューヨークへ渡り、南米やヨーロッパへの撮影旅行を重ねた後、自分の写真集を世に出す決意とともに再びアメリカへ戻ります。そして、1958年に写真集『アメリカ人』を発表。自身は、発表直後に映画製作へと身を転じますが、『アメリカ人』は、かつてない大きな衝撃をもたらし、20世紀の写真を大きく変貌させるきっかけとなりました。

『アメリカ人』は、スイスから移住したばかりの若者がアメリカに強く感じた疎外感、不安、そして孤独。写真に表現されたざらざらとした質感と憂鬱な空気は、戦後アメリカ社会の様相を鋭くあぶり出した写真として世界に衝撃を与えました。1950年代のアメリカは、戦後の繁栄と自信にあふれ、一方で黒人差別に反対する公民権運動が勃発。人種問題や戦後の世代・文化が錯綜する、大きな変貌の渦中にありました。アメリカの社会的弱者、恥部的な実態を露にし、しかも写真のシャープさや美しい階調を求めない写真による『アメリカ人』は、米国内で、まさに“炎上”の様相を呈し、酷評されたのです。

しかし、即興詩をつぶやくように直観的なイメージ群と、それらを写真集の中で構成する手法は、全く新たな表現世界を提示していました。ドキュメンタリーでも、メッセージでも、決定的な瞬間でもなく、写真家自身が「何かを感じたら撮る」。あくまでも主観的な写真は、それまでの写真のスタイル、枠組みに捉われない自由さに溢れていました。しかも、大胆さだけでなく、細部までの繊細さや緊張感を併せ持つフランクの写真は、同世代の若者やアーティストを中心に、驚きと共感を得るまでに時間はかかりませんでした。やがて『アメリカ人』は、広く世界に受け入れられ、現在では最も版を重ねた写真集となりました。フランクによる主観的な表現の登場は、現代写真につながる劇的な変化をもたらしたのです。

『アメリカ人』の序文を書き、フランクと同時代の作家ジャック・ケルアックは「ロバート・フランクにおれからのメッセージ:あんた、目があるよ。」(『アメリカンズ』山形浩正訳、宝島社、1993年)とその魅力を表し、また、当館館長であり写真家の細江英公は「見ている人間が見られていると感じる。怖い写真家だ」と、瞬時に本質に迫るフランク作品の特徴を表しています。

フランクは現在94歳ですが、写真・言葉・グラフィックワークを自在に操った写真集が次々と発刊されています。しかし、展覧会の開催は比較的少なく、日本国内での大規模な展覧会は本展が23年ぶりとなります。

本展では、当館の収蔵作品より、これまで写真集に掲載したことのない未発表の作品を含めた106点を展示いたします。作品はすべて撮影当時に近いヴィンテージ・プリントで、当館がまとまった形で展示をするのは、本展が初めてとなります。

これら自選の作品によって、若き写真家が、模索と挑戦を重ねた初期の歩みと眼差しを辿ります。

本展が、フランク作品の歴史的価値と今日的意義を明確にする貴重な機会となると確信し、また、あらためて写真との深い対話を交わす機会となれば幸いです。