VEDUTA 針穴のヴェネツィア

VEDUTA 針穴のヴェネツィア
田所 美惠子
2019/09/04 ~ 2019/11/16
gallery bauhaus

VEDUTA(ヴェドゥータ)とは、18世紀にヴェネツィアで生まれた絵画の一ジャンルで、風光明媚なヴェネツィアを精巧に描いた景観図を意味します。
教養の修得を目的としたイタリアへのグランド・ツアーの最後に立ち寄るヴェネツィアで、西欧のエリートの子弟が土産として買い求めました。
VEDUTAで名を馳せた画家の一人にカナレット(本名:Giovanni Antonio Canal)がいます。
19世紀に写真が発明されたとき、「まるでカナレットの絵のようだ!」と写真の精緻な描写や光の効果に感嘆したと言われますが、彼はまさに写真を先取りしたかと思わせる画家でした。さらにその広角レンズで切り取られたような構図を目にすれば、カナレットがカメラの前身であるカメラ・オブスクラを利用したという説も十分に説得力をもちます。

私がヴェネツィアを初めて旅したのは、パリで針穴写真と出会う直前の1980年代最後の夏でした。写真誕生150周年にあたるこの年、フランスでは写真の歴史に関する様々なイベントが催され、私はそこで偶然に針穴写真を知りました。
カメラ・オブスクラと同じくらいアーカイックな光学装置で、カナレットの時代とほとんど変わらぬこの町の姿を捉えたいと、その後、幾度となくヴェネツィア詣でをするようになったのは極めて自然な成り行きでした。

あれから30年、ヴェネツィアを訪れる人々の国籍は世界経済の動向を反映して大きく様変わりしても、観光都市としてのこの町の賑わいは一向に陰りが見られません。
21世紀に入ってさらにバージョンアップした光学装置のおかげで、スーベニアのVEDUTAは今や自撮りの背景になり世界中でシェアされています。それでも私は以前と変わらないやり方で、栄光の残滓が染みこんだ迷宮をさまよい、VEDUTAの記憶を小さな穴から拾い続けます。

田所美惠子

モノクローム(ゼラチン・シルバー・プリント)作品約40点を展示。