写真展

ARMS

岩根 愛

2019.05.17(fri) ~ 06.15(sat)

岩根愛は、ハワイと福島という一見結びつきの見当たらない土地に「BON DANCE(ボンダンス)」を通じた深いつながりの歴史を見出し、12年という長い年月をかけた壮大なフィールドワークを、作品集『KIPUKA』に結実させました。本展では、ここから新たに派生した「新緑」をテーマにした未発表作品〈ARMS〉を展示いたします。
 
新緑の季節といえば、一般的に連想されるのは春と夏の間の「初夏」ですが、岩根が初めて強烈に新緑を体験したのは、冬の雨季のハワイでした。雨上がりに一面に広がる蛍光グリーンの輝きを一身に浴びた岩根は、やがて東京に戻ると、都市部の街路樹にも同じ色彩がみられることを見出します。新緑にまつわる体感をさらに探っていくと、ハワイの荒地に日系移民一世たちの墓石を発見したときの感覚にも結びつくことに気がつきました。「それらは、顔のない人が力強く腕をつき伸ばしてくるように、同じように私に向かってくるのだ」と回想します。

出て来たばかりの新しい命と、ひっそりと隠れていた命の痕跡。あるいは、大自然のなかでいきいきと命を謳歌するハワイの木々と、人工物に囲まれながらも逞しく命をつなぐ都市部の街路樹。壮大な移民文化をボーダーレスに『KIPUKA』というひとつの物語にまとめあげたように、岩根は、空間や時間を超えて、正反対にもみえる事象や物事に通底するものを嗅覚で見出し、写真作品に込めていきます。
 
青山墓地の新緑が芽吹き梅雨を迎え始める頃に、〈ARMS〉としてハワイや東京の新緑を対比させながらひとつづきに岩根が体感した世界観を、個展形式で初めて発表する貴重な機会を、是非お見逃しなくご高覧いただけましたら幸いです。

ARMS—顔のない人



 ハワイ島サウスポイントの、冬の雨季の午後だった。連雨のあとに現れた、米国最南端の太陽の光に、地中から目を覚ました草が蛍光色に輝き、遮るもののない轟音の貿易風に揺れていた。岬の先へ、一面に輝く蛍光グリーンの海の中を歩きながら、初めて見るその色が、体に染み渡っていくようだった。常夏ハワイの新緑の季節は、冬だったのだ。
 やがて東京の春に、サウスポイントのグリーンが現れることに気がついた。街路樹の先端に現れるその色は、これまでの私には見えていなかったのだ。拡張した視覚が求めるまま、私はあのグリーンを探した。新緑のとき、雨が降った翌日の、正午の真上の光の中、出て来たばかりの腕が、私に伸びてきた。
 
 私に向かってくる新緑と出会うそのとき、既視感があった。
 今はジャングルとなり忘れられた、ハワイのサトウキビ農場跡地を歩き、ここだ、墓地を見つけた、とわかる、最初の墓石と出会うときである。
ハイウエイの橋桁から降りて、道なきヤブの中を進むと、ふとした気配があって、ぷつっとクモの糸をちぎってしまった感触に視線を落とすと、草に埋もれた墓石がある。貯水タンクのすぐ横に、荒れ果てた草地に、溶岩流の中に、それらはふと鎮座している。刻印された文字が判別できない苔むした墓石は、人型の輪郭を纏って私を見つける。
 
 出て来たばかりの新しい命と、ひっそりと隠れていた命の痕跡、正反対にも見えるこの二つの対象が、ふと自分に見えるとき、それらは、顔のない人が力強く腕をつき伸ばしてくるように、同じように私に向かってくるのだ。
 
岩根 愛

※5月25日(土)、6月1日(土)短縮営業(12:00~17:00)

▼オープニング・レセプション
2019年5月17日(金)18:00-20:00
※どなたさまもご自由にお立ち寄りください

▼トークイベント
石内都 × 岩根愛 対談
日 時:   2019年6月7日(金)19:30~20:45(19:15受付開始)
場 所:  KANA KAWANISHI PHOTOGRAPHY
登壇者:  石内都(写真家)× 岩根愛(写真家)
定 員:  40名(先着25名着席)
料 金:  予約1000円/当日1500円(ワンドリンク付)
(ご予約はギャラリーホームページより)

■登壇者プロフィール
 石内 都(いしうち・みやこ)
1947年群馬県桐生市生まれ。1979年に写真集『Apartment』で第4回木村伊兵衛写真賞を受賞。2005年、母親の遺品を撮影した〈Mother’s〉で第51回ヴェネチア・ビエンナーレ日本館代表作家に選出され、2013年に紫綬褒章、2014年にハッセルブラッド国際写真賞を受賞。2015年、J・ポール・ゲティ美術館(ロサンゼルス)での個展「Postwar Shadows」や、2017-2018年、横浜美術館での個展「肌理と写真」など国内外の主要美術館で回顧展が開催されている。

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