香り研究技術×AR「研究技術のアート・コミュニケーション展」

レポート / 2018年11月20日

写真とARで香りをビジュアル化

ギャラリーは、町工場をリノベーションした建物の2階にあります。
入口奥の階段から、植物をかき分けながら昇っていきます。

東京・上野の入谷口から徒歩3分にある「みんなのギャラリー」は工場跡地をリノベーションした建物の2階にあります。写真や映像、インスタレーション、絵画、彫刻などさまざまな企画展を開催しています。現在行われているのは、企業の研究データをデジタル技術で表現している一風変わったアート展です。

花の香りに包まれた会場に入ると正面に見えるのは、カザンリンク(バラ)とガーデニア(クチナシ)をシンボリックに写した作品。蕾・咲きかけ・開花の3時期をとらえた作品は、学術的でもイメージ的でもない独特の陰影によりシンボライズされているのが特徴です。スペインのフォトグラファーであるFrancisco Hernandez Harzalさんが照明を操りながら撮影していったそう。
シンボリックな花の写真作品に会場内のタブレットをかざすと、花から香り成分が拡散しているAR(拡張現実)を楽しめます。ちなみに香り成分の種類や量は、実測データを元に視覚化されているとのことです。在廊されていた花王の安部忍さんにお話を伺いました。

AR(拡張現実)を用いて、花から拡散される香りを視覚化。花の種類、つぼみ・咲きかけ・開花時期で香り成分が違い、また花の写真からの距離によって量も変化します。

「アートも科学も差はありません。私たち人は本能に近い部分で知りたい、見たいという願望を持っていて、アートを鑑賞するということは科学の観察に通じます。一方で、情報社会においてインターネットではできないことをしたいと考えました。研究データのビジュアル化や、体感できる装置や空間をつくることで、科学や技術について興味を持ってもらえればうれしいです」

多くの企業が、メセナ(文化・芸術支援)活動の一環として自前の技術をアートにしてオフィス内に飾ることで、若手のアーティスト・クリエイターの活躍の場・機会が広がるのではと、ビジョンを語ってくれました。

会場には他にも、香りを正確に採取するためのエアロセント装置や、花の開花のタイムラクス動画にあわせて香りを体感できる作品などが展示されています。花の良い香りに包まれながら科学とアートの不思議な世界を体感しに、ぜひ会場へ足をお運びください。

右が、香りを正確に採取するためのエアロセント装置。苔の香りも採取できるそうです、すごい!ほかにも地域と共同で、南高梅の香りを分析して73の香り成分があることを解明したり、屋久島の空間の香りは苔、土、木、落ち葉の4種類から作り出されていることを突き止めたりしていると、説明してくれました。

開花の動画にあわせて、匂いが拡散される装置。

前半(11/12〜18)の展示の様子。不織布の繊維をアートで表現。自社内で研究しているからできることだと、安部さん。2mm角に切り取った不織布を1mまで拡大しています。左はピカッと輝くシート、右がクイックルワイパーのシート。どちらも身近にある日用品がアートになっている興味深い作品です。

前半(11/12〜18)に展示されていた映像作品。若手彫刻家が動物や植物の形に彫った「バブ」が、泡を出しながら溶ける様子を見せたもの。刹那的な儚さは、サンドアートに通じます。

【香り研究技術×AR「研究技術のアート・コミュニケーション展」】
会期:2018年11月19日(月)~11月25日(日)
12:00~19:00(最終日は18:00まで)
会場:東京都台東区東上野4丁目14番3号 2階ギャラリースペース
主催:花王株式会社 香料開発研究所/作成部門