福井県越前市旧今立町五箇地区

福井県越前市旧今立町五箇地区
産業編集センター 出版部
2024/04/15 ~ 2024/05/15
福井県越前市旧今立町五箇地区

【旅ブックスONLINE 写真紀行】
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紙祖・川上御前に守られる、日本の製紙発祥の里

 旧今立町の五箇地区は、約1500年前から製紙業で発達してきた町である。美濃・土佐と並んで越前和紙の名は全国的に知られているが、この地区がその生産の中心地である。
「越前和紙の里」と呼ばれるこの地区は、JR武生駅から車で約20分。「パピルス館」「卯立の工芸館」「紙の文化博物館」の三つの施設をつなぐシンボルロード「和紙の里通り」は全長二百三十メートルの石畳の道で、両側には街路樹が並び、伝統的家屋が連なっている。またここから10分ばかり歩くと、岡太(おかもと)川に沿って600メートルほどの町並みが続く。ここが五箇地区の和紙づくりを支えてきた古くからの通り。歩いていると、あちこちの家々から和紙を漉く音が聞こえ、和紙特有の匂いが漂ってくる。それまで紙の匂いというものを意識したことはなかったが、昔ながらの製法で漉かれた出来たての和紙はかなり強い原料の匂いがする。この町ならではの匂いだ。
 さて、この町並みをさらに東の方へ歩くと、5分ほどで赤い大きな鳥居に迎えられる。紙祖神と呼ばれる岡太神社は約1500百年前に創建され、紙祖とされる川上御前を祀っている。1500年前のある日、岡太川の上流の宮ヶ谷という村に、ひとりの美しい女性が現れ、「この村里は谷あいで田畑が少なく、暮らしにくいところです。でも水清らかな谷川と、緑深い山々に恵まれています。紙漉きを生業とすれば暮らしが楽になるでしょう」と言い、里人たちに紙の漉き方を教えた。里人が「あなた様はどなた様ですか?」と尋ねると、「岡太川の川上に住む者です」と答えて立ち去った。以来、人々はこの美しい女性を「川上御前」と呼んで紙祖神として岡太神社に祀った—。これが我が国における製紙の始まりと伝えられている。
  岡太神社と並び建つ大滝神社は、鎌倉時代、和紙の製造や販売について中央から特権が与えられた「紙座」が置かれた神社である。この二つの神社の社殿は一つで、その屋根は日本一複雑な構造の屋根として知られている。
  越前和紙の凄さを言葉で簡単に説明するのは難しいが、肌が滑らかで書きやすく、紙質も引きしまっていて虫害に強く、耐久力があるのが特徴である。代表的な銘柄の「鳥の子」は、ジンチョウゲ科の雁皮を原料とし、奈良時代から漉かれてきた和紙で、国の重要無形文化財に指定され、昔から最高品質の「紙の王」といわれている。また、お札に使われる「透かし」の技術を開発したのも越前和紙職人で、日本で初めてお札を作ったのも福井藩である。このように数々の栄光の歴史を重ねながら、五箇地区は現在も、質・種類・量ともに全国一の和紙産地としてあり続けている。

※『ふるさと再発見の旅 東海北陸』産業編集センター/編 より抜粋