石川県珠洲市蛸島町

産業編集センター 出版部
2024/10/15 ~ 2025/01/15
石川県珠洲市蛸島町
【旅ブックスONLINE 写真紀行】
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キリコが舞う能登最奥の漁村集落
能登半島の先端に位置する珠洲《すず》市。三方を海に囲まれ、突端の禄剛崎《ろっこうさき》を境に、日本海に面した沿岸部は外浦《そとうら》、富山湾に面した沿岸部は内浦《うちうら》と呼ばれている。岩礁海岸が多い外浦は日本海ならではの厳しい海が広がるが、それに比べて内浦は穏やかな海となだらかな砂浜が続き、大小の湾が続くこともあって良港が多い。そんな内浦にあって、古くから漁港として栄えてきたのが蛸島である。その昔、蛸島の船乗りを喰う大蛸が現れるが山神に退治され、その大蛸が島になったという伝説が地名の由来になっている。
江戸時代には北前船の風待港としてにぎわい、町には廻船問屋や酒造店が建ち並んでいた。しかし、明治時代になると町は急速に衰退。さらに金沢から180キロ離れているという地理的条件も重なり、陸の孤島と呼ばれるようになってしまう。結果的には、そのことが性急な開発から町を守ることにつながり、昔ながらの美しくも懐かしい町の風情を今に残すことになった。
港の近くに広がる集落には切妻で妻入、下見板張りの家が軒を連ね、黒く艶のある能登瓦が味わい深い風景を見せている。家屋の間を縫うようにひろがる路地は、すべて海につながっており、心地よい海風が吹き抜けていく。
毎年秋には、能登の代表的な祭りであるキリコ祭りが、蛸島では高倉彦《たかくらひこ》神社の秋祭りとして行われる。キリコとは切子灯籠《きりことうろう》のことで、重さ2トン、高さは15メートルもある。このキリコを神輿とともに担ぎながら町を練り歩く。少なくとも江戸時代には行われていたようで、もともと祇園信仰や夏越しの神事だったものが、能登で独自に発展したといわれている。
蛸島の町にはキリコを保管する奉燈格納庫が点在し、祭りが近くなると町内ごとにその格納庫からキリコが運び出される。見事な彫物で装飾され、金粉をふんだんに使った漆塗りの巨大な蛸島の灯籠は、能登のキリコの中でもひときわ美しいといわれている。
毎年9月の祭りの夜、十数基のキリコが神輿とともに町を巡る。灯された火に照らされて夜の町に浮かぶキリコ、そして担ぎ手たちの額に光る汗。祭りの最終夜には江戸文化の華を伝える神事・早船《はやふね》狂言が神社境内の神楽殿で奉納される。古くから伝わる神事にふさわしい神秘的で幻想的な世界が蛸島の夜を彩っていく。
※『ふるさと再発見の旅 東海北陸』産業編集センター/編 より抜粋






