齊藤小弥太 写真展「土地の記憶」
齊藤 小弥太
2024/06/04 ~ 2024/06/16
TOKYO BRIGHT GALLERY
2029年3月31日に向けて成田空港第三滑走路の新設工事が始まっている。
現在成田空港にはA滑走路とB滑走路、2 本の滑走路が設置されている。
しかし、NAA( 成田国際空港株式会社)は現在の一年間の発着容量である30万回から、50万回に増やすため成田空港の敷地を1099ha 拡張。滑走路長3500メートルの第3滑走路 (C滑走路)の建設が進められている。
建設対象の地域では大規模な集団移転が始まっているが、それぞれの集落では高齢化が進み農村の維持が難しくなっていたことから、昔のような大きな反対運動などはなく淡々と移転へと進んでいる。私が初めてこの地域を訪れたのは2019年のことだ。谷津田に広がる田園風景や集落内に点在する長屋門。先祖代々の土地に生きる人々の暮らしと、昔から続く素朴な風景に心を惹かれて写真を撮り始めた。
しかし時間の経過と共に集落の姿は移り変わっていった。
移転対象地域に建っている家屋の多くは先祖が植えた杉や檜を裏山から伐採して、
建設資材として建てたものだ。集落内の山林には樹齢100年にもなる木々も多く、 それらは脈々と子孫へと受け継がれる先祖からの贈り物である。しかし、移転の際には住宅だけではなく、それらの木々や田畑も更地にして引き渡さなければならない。有害な雨風から作 物を守るために田畑を取り巻いていた防風林も今では見る影もなく、巻き上がられた砂埃が更地となった地面の上に舞い上がっていた。
「このままずっとこの土地で暮らすと思っていたのに、まさかこんなことになるなんて。なんだかご先祖様に申し訳なくて」取材を進める中でそんな声をよく耳にした。昔のような大きな反対運動は起こっていはいないが住み慣れた土地への愛着やご先祖へ想いは強く、移転へと踏み出せない住民の方は多くいる。しかし刻一刻と移転に向けて時間は進んでいく。先祖代々の土地に住み、その土地に生かされてきた人々の営みとその風景は20 29年3月31日に向けて消失の最中にある。失われてしまう風景と人々の営みを記録した。
▼開催情報
齊藤小弥太 写真展「土地の記憶」
会期:2024年6月4日(火)~6月16日(日)
12:00~19:00(最終日17:00まで)
月曜休館
会場:TOKYO BRIGHT GALLERY
東京都千代田区内神田2-13-8 BMビル 5F