愛知県西尾市一色町佐久島
産業編集センター 出版部
2024/10/11 ~ 2024/12/14
愛知県西尾市一色町佐久島
【旅ブックスONLINE 写真紀行】
産業編集センター出版部が刊行する写真紀行各シリーズの取材で訪れた、全国津々浦々の風景を紹介しています。
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黒壁の古民家が密集する「三河湾の黒真珠」
西尾市の一色港からフェリーで約20分、三河湾の真ん中あたりにぽっかりと浮かんでいる佐久島は、1996年からアートによる島おこしに取り組んでいる。島のいたるところにユニークなアート作品が展示されていて、観光客に人気のようだ。我々がいる間も、各地から若い観光客が相当数訪れていて、昼どきはガイドブックに載っている食堂などはどこも満員の盛況だった。どんなアートなのか、興味のある方はぜひ島に行ってご覧いただくとして、我々がここでご紹介するのは、漁業で栄えてきた昔ながらの佐久島の町並みである。
佐久島は周囲1.6キロ、面積181ヘクタール、東京ディズニーランド約3個分の広さで、人口はおよそ260人。地層からは縄文式土器や弥生式土器、貝塚なども出土し、50基以上の古墳も残るという歴史の古い島である。江戸時代には海運業で栄華を極めた時期もあったが、その後は海苔の養殖などを中心とする漁村となった。
島内は西と東の二つの集落に分かれている。東は島の玄関口で近代的な旅館や社寺なども多い地域、古民家が多く残っているのは西の集落だ。ここの道路は殆どが巾4メートル以内で、狭い上に不規則に曲がりくねって分岐しているので、歩き出すとまるで迷路に迷い込んだように方向がわからなくなる。その迷路の両側にぎっしりと建ち並ぶ家々は、その殆どが板壁で、全面にコールタールを塗っているため真っ黒。こ
れは潮風による腐食を防ぐためで、漁業が盛んだった佐久島では船底に防水用のコールタールを塗っていたので、それを家の壁にも応用したらしい。
島の人たちにとっては実用目的だったわけだが、この黒壁の木造建築が細い路地に密集する独特の景観に魅せられた人たちは、ここを「三河湾の黒真珠」と名づけて絶
賛した。実際に訪れてみると、本当に珍しい見事な家並みで、黒真珠という呼称が決して大袈裟でないことを実感した。一見の価値のある景観だと思う。
愛知県には有人の島が3つ(佐久島、日間賀島、篠島)ある。その中で、名古屋からのアクセスが不便なこともあり、佐久島は一番大きな島でありながら圧倒的に人口が少
なく、過疎化・高齢化が進んでいる。人口はここ10年で半分に減っているそうで、その一因として島外資本による投資が行われなかったことが挙げられているが、そのことがかえって「三河湾の黒真珠」のような景観が残ることにつながったのだろう。確かにアートによる島おこしは進んではいるものの、それに乗ってむやみに観光開発を進めることはしないようだ。いまだに昔ながらの風景が残る、貴重で魅力的な島である。
※『ふるさと再発見の旅 東海北陸』産業編集センター/編より抜粋