富山県黒部市生地

富山県黒部市生地
産業編集センター 出版部
2024/10/14 ~ 2024/11/15
富山県黒部市生地

【旅ブックスONLINE 写真紀行】
産業編集センター出版部が刊行する写真紀行各シリーズの取材で訪れた、全国津々浦々の風景を紹介しています。
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清らかな水が湧き出る名水の里跡

 北アルプスを水源に、深い峡谷を縫うように流れ下り日本海へと注ぐ黒部川。古くから豊かな水量を誇る清流の川として知られ、黒部の地に多くの恵みをもたらしてきた。
 立山連峰の山々に染み入った川の水は地下水となり、やがて河口に広がる扇状地に湧出する。その数約750ヵ所。人々はその湧水を自噴井戸として整備し、貴重な生活用水として古くから使い続けてきた。その中で、数多くの自噴井戸が今も町中に残り、湧水を上手に生かした暮らしを営んでいるのが生地地区である。
 かつては新治(にいはる)村と呼ばれていた生地は、久寿(きゅうじゅ)2(1155)年8月の大津波によって大きな被害を受ける。多くの家が流され住民も四散し、村は壊滅状態になったが、村人たちは必死の思いで復興を成し遂げる。その際に、「人々が生まれた土地に帰る」とともに「新しい土地が生まれた」という意味を込めて、生地という地名に変えたといわれている。
 生地では、湧水のことを「清水(しょうず)」と呼び、今も多くの清水が町中にある。水量、水質、味わいがそれぞれ異なり、水温は1年を通じて11度前後に保たれていて、適度なミネラルを含んでいる。飲水、炊事、洗濯などに利用され、お気に入りの清水を求めて、近隣の町からも多くの人がやってくる。
 名水の町として広く知られている生地だが、南北に伸びる町の道筋を歩いていると、ところどころに古い商家が残っていることに気づく。江戸時代、生地は北前船の寄港地としてにぎわっており、その名残が町に残っているのだ。一歩路地に入れば、古くからの漁村らしい町並みが顔をのぞかせる。
 町のはずれに、昔の村の名前を冠した新治神社という神社があった。天智天皇の時代に創建されたといわれている神社で、大洪水で水没したものの、住民の手によって再興された。この神社の境内にある月見嶋(つきみじま)と呼ばれる池にも清水が湧いている。「月見嶋の清水」と呼ばれており、池の底から湧いてくる水の様子をしっかりと見ることができる。
 その他にも、松尾芭蕉が越中巡遊中に見つけたといわれる「清水庵の清水」、清水の隣にあった豆腐店が絹ごし豆腐を作っていたことが由来の「絹の清水」、生地でもっとも古いといわれている「前名寺(ぜんみょうじ)の清水」など、さまざまな物語をもつ清水が町中に20ヵ所残っている。これらの清水をめぐり、澄んだ湧水で喉を潤しながら細い路地を歩けば、風情ある港町めぐりを楽しむことができるだろう。

※『ふるさと再発見の旅 東海北陸』産業編集センター/編より抜粋