北海道中川郡音威子府村

北海道中川郡音威子府村
産業編集センター 出版部
2025/04/15 ~ 2025/05/15
北海道中川郡音威子府村

【旅ブックスONLINE 写真紀行】
産業編集センター出版部が刊行する写真紀行各シリーズの取材で訪れた、全国津々浦々の風景を紹介しています。
書籍では掲載していない写真も地域ごとに多数掲載。
写真の使用・販売に関するご相談は旅ブックスONLINEのお問い合わせフォームからご連絡ください。

可憐なそばの花と星が美しい小さな村

 北海道のほぼ中央に位置し、南北に長く広がる上川(かみかわ)地方。山に囲まれた内陸地のために夏と冬の寒暖差が大きく、特に冬の最低気温は日本一を記録したこともある。この上川地方の北端、旭川と稚内のちょうど中間あたりにあるのが音威子府村である。初見でこの地名を正確に読める人はほとんどいないかもしれない。地名はアイヌ語で「標木の堆積する川口、濁りたる泥川」といった意味をもつ「オ・トイネ・プ」が由来となっている。
 北海道で一番小さい村であり、現在人口は約600人。村のほとんどが森林となっていて豊かな自然に囲まれている。大正元年に宗谷本線が開通し、音威子府駅はJR天北(てんぽく)線との分岐の駅として栄え、村も鉄道宿場町としてにぎわいをみせた。最盛期には4000人ほどの人口を抱えていたという。だが、鉄道路線の廃止などによって人口が減少、今は往時の面影はほとんど残っておらず、村はだいぶ過疎化がすすんでいる。
 しかし、その分、豊かな自然は今もなおこの村の宝として人々の暮らしを支えている。たとえば、咲来(さっくる)駅から天塩川(てしおがわ)温泉駅の間に広がるそば畑。7月の下旬から8月の中旬にかけて、広大な畑に白いそばの花が咲き誇る。実は、音威子府そばは、全国のそば通の間では知られたそばで、かつて音威子府駅の構内の店で出されていたそのそばを求めて、全国から多くのそばファンがやってきたといわれている。いまは、この村で同じそばを食することは難しくなったが、「匠そば」というブランド名でなまそばが販売されていると
のことだ。
 また、音威子府は、「北海道」という地名が命名された場所としても知られている。幕末の探検家松浦武四郎が天塩川を調査した際、この地でアイヌの古老から現在の北海道の名称の発想のもととなる話を聞いたとされており、天塩川のほとりには、「北海道命名之地」という碑が建てられている。
 そば畑を見学した後、この碑を見に行った。近くを流れる天塩川のせせらぎが聞こえてくるほど静かな場所。ふと空を見上げれば、天然記念物のオジロワシが悠々と空を舞っている。もし時間に余裕があるのなら、そのまま夜になるのを待ってもいいかもしれない。天塩川河川敷から夜空を見上げれば、数え切れないほどの星が輝き出す。都会では決して見ることができない風景を、この音威子府村なら簡単に見ることができるだろう。

※『ふるさと再発見の旅 北海道』産業編集センター/編 より抜粋