東京電線

東京電線
木下 修
2010/11/18 ~ 2010/11/24
Exhibition Archives

 日本の都市の電線は欧米の都市には見られない日本独自の特徴である。あるフランス人は、アニメなどを通じて広く世界に知られるようになった日本の都市景観の中で「日本日常三景」を選ぶとしたら間違いなくその一つは「電信柱と電線」と記述している。
 電線は、かっては東京の空を網の目のように覆い、工場の煙突と同様に都市の活力を示す象徴として考えられていた時代もあった。ところが今は、電線は都市の景観を壊し、電線を支える電柱は道路の端で人や車の通行を妨げる邪魔者として扱われている。このため、電線の地中化が強力に進められ、メインストリートではほとんど姿を消しつつある。
 けれども電線は、街を睥睨するシンボルのような建物にも、空に聳える高層ビルにもしっかりと寄り添い、まるで蜘蛛の糸のようにまとわりついている。住宅街にある洒落た、瀟洒な住宅でもこの糸から免れることはできず、ビル以上に取り囲まれている。
 この不可思議な線が、エネルギーだけでなく今や光ファイファーとなり地球上のあらゆる情報も伝えている。無数に延びたその先には生活の場があり、この線が人々の生活を支えており、またある意味では監視・支配しているといえるのかもしれない。
 電線は東京を規定しているもののひとつなのである。

会場:HCLフォトギャラリー新宿御苑 (現在は閉鎖)
〒160-0022 東京都新宿区1-6-5

「東京電線」:フォトコン誌口絵掲載(2010年11月号)
作品はいずれもポジフィルムで、デジタル処理しました。