稲垣 英孝 写真展「RESURRECTION SPELL」

レポート / 2018年12月5日

~音楽を奏でる作品展示が、人の記憶や時代を浮き彫りに~

会場にて、稲垣さん。「20年ほど冬眠していたんです(笑)。でもその間も写真はずっと撮っていた。昨年頃に、まとまったぞという感覚が生まれ、きちんと展示してみようと動き出しました」。ちなみに写真展タイトルの「RESURRECTION SPELL」は某ゲームの「復活の呪文」からとったもの。「復活の呪文を唱えると、蘇って元気になる。そういう展示にしたかった」とのこと。

今回が初の個展だという、写真家の稲垣英孝さん。19歳の時に自転車旅をしながら写真を撮ったのが、写真に親しむきっかけとのこと。旅の道中で自分と同じように旅する人に出会い、その人の撮ったリバーサルフィルムの作品に触発された稲垣さんですが、思い通りに撮れなかったことで写真への興味が湧き立ったと言います。

来廊者の中には、作品からフクシマを連想した人もいたそうで、「時代や見る人によって写真の意味は違ってきます。この作品群に福島の写真は1枚もないのですが、フクシマを連想した方がいたということは、写真を通して、2011年以降の日本人の心に植え付けられた普遍的コードが浮き彫りになったということかも」と、話してくれました。

展示されているのは、北海道から九州までの風景や人を写した47点の作品です。稲垣さんの作品には特別な風景は写っていません。自身の目と手だけで撮った作品は、人の視界に近づけるため一点のみをフォーカスしわざとボケを演出したものが多くあります。
作品づくりで最も心掛けているのは、影をつぶさないことだそう。明るい場所と影の中が一つの画面に併存している様は、非現実的で、脳の片隅でくすぶる曖昧な記憶や感情が呼び覚まされる気がします。

「僕は影で消えてしまう暗い場所に目を持っていくのが好きです。そこに物事が隠れているような、引きずり込まれるような感覚になります。写真は鏡のようなもの。作品を見る時、人は自分の記憶を思い返したり、経験を投影したりします。その時の感情が写ることもあれば、時代の雰囲気が見えることもある。自由な感覚で見てもらえれば嬉しいです」

「その人の感覚で見てもらうためのとっかかりとして、音楽を意識しました。より音楽を感じられるように、音符の並びを表現しています」と、稲垣さん。ある童謡の譜面をイメージして展示。一見不揃いに見えますが、高音はフレームの下部を、低音はフレームの上部を揃えることで規律が生まれています。揃った箇所が五線譜のようにも見えるのが面白い。

稲垣さんの写真で露わになった「影」には、社会や人が目をそらしているものや、モヤモヤしている何かが映り込んでいるのかもしれません。

また、作品1点1点を音符に見立て、ある童謡の譜面にあわせて飾られた展示方法にも、稲垣さんらしさが光ります。視線や身体を上下に動かしながら見ることで変化やリズムが生まれ、それが記憶を揺り動かす働きに。

影の中を見せながらも、ハイライトの部分が飛ばないように調整された作品。「当初はデジタルをフィルムに近づけたいという思いがあったけれど、今はデジタルの色の中に、自分の色を見つけました」と稲垣さん。

今後は、写真を通じて社会や人々の中に植え付けられている普遍的コードを浮き彫りにするような、社会性のあるドキュメンタリー作品に挑戦していきたいと話す稲垣さん。
12月5日はあいにくの不在ですが、期間中はなるべく在廊する予定だそうです。ぜひ会場へ足を運び、音楽やリズムを感じながら写真作品をお楽しみください。

【稲垣 英孝 写真展「RESURRECTION SPELL」】
会期:2018年11月30日(金)~12月13日(木)
10:30~18:00(最終日は14:00まで)
会場:エプソンイメージングギャラリー エプサイト(日曜日休館)
https://www.epson.jp/showroom/marunouchi/epsite/gallery/?fbclid=IwAR2tFMM6V-g8TGu84JhqzF9_oODtgr5kZioVm8xjQxFp3db_NdIhBruhhKc#e20