Gerry Johansson『Ehime』

レポート / 2020年10月17日

~フレームの外に写っている景色までもが感じられる作品たち~

今回の出版にあたって、T&M Projectsは一点一点の作品の撮られた場所の地名を、グーグルアースのストリートビューでつきとめ、似た場所は著者に確認してから表記されたとのこと。

book obscuraで19日(月)まで行われる、スウェーデン出身のフォトグラファー、ゲリー・ヨハンソンの写真集発売を記念したポップアップ展示。タイトルは、愛媛県出身の私としては「えっ。うそでしょ」、と二度見してしまった『Ehime』。恥ずかしながら愛媛を撮っていたことを知らなかった私ですが、彼が撮った日本は『Tokyo』を見たのが記憶に新しく、あの“愛媛”がどんな作品になっているのだろうという好奇心に駆られ行ってきました。
早速、店主の黒崎さんに、いろいろとお話を伺いました。

ー今回出版された 『Ehime』 について教えてください。

ゲリーが1999年に滞在制作で招待された愛媛を 、1ヶ月に渡り車で移動しながら8×10を使い撮影をしたもので、この時に撮られた作品はいくつかの本で発表されていますが、出版社のT&M Projectsが「一冊にまとめ写真集をだしませんか」と提案して実現しました。 出版社さんの説明では細かく書かれていないのですが、海からはじまり街に入ってきて、また海に戻るという流れになっていて、ゲリーが車で移動していた感じを伝える構成になっていると聞きました。

ー今回プリントがついた特装版もあるとのことですが。

そうなのです。プリント5種が全部ついたものと、5種がバラで一枚ずつとセットになった2パターンがあります。驚きなのは、ゲリーが作品によって印画紙を変えるというのは知っていたのですが、5枚とも全部印画紙が違うということ!本当にまさかって思いました(笑)

ープリント付きでこのお値段では普通買えないですね。

いろいろな人に見てもらいたい、自分のプリントを老若男女に手にしてもらいたいという気持ちが強かったようで、今回は破格の値段でやることになりました。「えっこの値段で?」と疑われる方も多いのですが、特装版に付くのは全てゲリー自身による、手焼き銀塩プリントになります。

イカ、イカを干している縄目の詳細までもが美しいプリント。フチの部分にはゲリー自身が書いたであろう数字が。整理のための数字かと思われますが、それが見えるのもこの額装ならでは!

ーこの5枚を選ばれたのは作者本人でしょうか。

ご本人と出版社さんが話し合って決められたそうです。特装版で用意されたプリントは各20枚の限定になり、このプリントにいくつかを加えたものを今回展示しています。額装されたのは中目黒のPoetic Scapeの柿島さんですが、わざと黒フチを残しての額装です。
(ここで8×10のフィルムホルダーを見せてくださり、プリントとフィルムの大きさはまさに同じ!)
ゲリーがグラスを通して見ていたものを、同じように見ることできるという、追体験もできる気がします。

ゲリー・ヨハンソンのメッセージ

このゲリーのメッセージを読んでもらいたいのですがと、黒崎さん 。
(作品に関しての文章ではなく、ゲリーにあなたにとってプリントとはどういうものなの、と聞かれたことへの返答になるものとのこと)。

ーこのメッセージはコロナを経た今だからこそ、より大切にしなきゃと感じさせられますね。

写真を撮っている人がなぜ楽しいのかということ、写真集を愛する人たちが楽しいと思っていること。大御所であるゲリー自身も同じように思っているんだという、感動と共感を強く感じましたし、最後に銀塩ほど美しいものはないと思う、で終わっていますが、私もこの美しさをもっと感じるようになっていければ思いました。
ゲリーは今回の 銀塩プリント (特装版の5種)で使用した印画紙や現像液、すべて表示してくれていて、モノクロやフィルム・現像を勉強している人には特に学べる機会になるのではと思います。

ー印画紙によって、作品の仕上がりがこんなに変わるというのを見比べられるのもおもしろいですよね。これは(「West of Matsuyama / ▽」の作品を差して)瀬戸内特有の凪いだ海の空気感も含めてすごく伝わってきます。

ゲリーは白夜の国の人なので、過去の写真集を見ても、あまり雲と影を使っての表現はしていません。光がはっきりしない、影が少ない作品が多いのですが、彼は愛媛に行っても影を使わないのだと思いました。

左から特装版につくプリント「Southwest of Uwajima / イカ」「West of Matsuyama / ▽」

ー元地元民からすると、街も自然も温暖でのんびりしたところがとらえられていて、ヨーロッパの人が愛媛を見ると、こう見えるんだなと新鮮です。

(柳沢 信の写真集を見せてくださり)私は東京下町生まれ下町育ちなのですが、高い建物が多く密集しているので、はっきりとした影が写り、見ただけでこれは16時の太陽だなと分かります。この世界で育ったので、影がないという世界にはびっくりしてしまいます。そういう意味でもゲリーは本当に白夜の世界の人だなと思いますし、大きい画面の隅から隅までを追求し一枚で完結するように撮るという、画面構成力はとにかくすごいです。

ー確かにフチがついている展示作品が示す通り、ノートリミングの作品ですもんね。

本当に完成度がおそろしいと思います。遠くから見てもキレイだなと分かるのですが、近づいてもすごくキレイで、細かく見てもおもしろいというのはどういうことなんだと(笑)今までの写真集は写真が小さかったけれど、 今回の写真集『Ehime』では大きいサイズで見ることができて、とにかくホントうれしいです。

大判カメラならではのスケールと繊細な表現力の美しさは圧倒的で、 それぞれの街の特性を肌で感じ、自分の記憶の中の風景を呼び起こし、それらはスーッと染み込んできます。
ゲリー自身が撮るときに新鮮に感じたこと、興味が惹かれたこと楽しかったことを一緒に感じ、多分今行っても見ることのできる自然な素晴らしさを、あらためて教えてもらった気がします。 不思議と気持ちが和み、元気をなくしたときに見たくなる一冊。とにかく出版ありがとうございます!と声を大にして言いたいです。

最後に19日までになりますが、写真集に入っていない作品も見れる今回の展示。離れたところからでも、思いっきり近づいてみたりでも、自分の見たい距離からゲリー・ヨハンソンの銀塩プリントの美しさを鑑賞できる貴重な機会。ぜひ足をお運びください!

何気なく目にしていた風景が、こんなに豊かなものだったのかと気づかされます。都会一辺倒である社会に疑問を感じ、忘れていたものや大切にすべきものをあらためて感じました。

こちらで写真集を購入すると、サイン入りポストカードをいただけます。
https://bookobscura.com/items/5f7aaab44b083962c8a319e0

5種のプリントの、バラ一枚と写真集とセットになった特装版も!5種もいらない(買えない)けれど、作品を欲しいという方におすすめな太っ腹なセット。
※完売のプリントが増えているので欲しい方はお早めに!
https://bookobscura.com/items/5f7ab0434b083962e8a31add

予算が許される方は、写真家自身によるプリント5種全部と写真集、サイン入りカードが箱に収められた特装版も。こちらも5枚の作品がついてこのお値段!というお得なもの。
https://bookobscura.com/items/5f7ab2e593f6196543efb076

特装版をご購入の方には、今回の展示の額装をされたPoetic Scapeに、展示作品と同じ額装を特別価格でしていただけるサービスもありとのこと。
心ゆくまで作品を手に取って見た後は、こちらもぜひ!

Photo Exhibition : Gerry Johansson『Ehime』
会期:2020年10月8日(木)〜 10月19日(月) 
12:00~20:00
会場:book obscura(火曜・水曜定休)
https://bookobscura.com/news/5f6dbf798f2ebd2f8c0a5a74

写真提供・©︎KOSUKE KOBAYASHI(book obscura)