豊吉 雅昭写真展「MONOCLE VISION」

レポート / 2022年4月15日

豊吉さんにとっては初個展となる今展。Art Gallery M84を会場に選ばれた理由について、こちらで開催されている「アートの競演」への参加などで、オーナーである橋本さんへの信頼感の高さです!とのこと。

徐々に視野障害が広がっていくという緑内障。豊吉雅昭さんはその緑内障を発症し現在は左目の大半の視野が失われ、そのご自分の視界を表現された写真作品を発表されています。豊吉さんの初個展となる「MONOCLE VISION」にお邪魔して、お話を伺ってきました。

39点の作品が並ぶ様は圧巻で没入感にとらわれます。2016年から撮り始められ、2017~2022年に撮られたシリーズの作品300点以上の中から選ばれたものが展示されているそう。

ー早速ですが展示されている作品について教えてください。

多重露光と長時間露光を基本として制作しています。たまたまフィルムカメラのフィルムを巻き忘れて、一つのフィルムに二回撮ってしまったことがあって、それがはじまりです。現像に出し仕上がったものを見て、すごい面白いなと。いろいろと被って写っているものが、逆に何が何だか分からないっていう状態になっていて、それは僕が普段見ている光景に近しいものでした。その見えない自分の世界を表現したものが「MONOCLE VISION」になります。

ーきっかけはフィルムカメラとのことですが、今はデジタルでの制作でしょうか。

今はデジタルカメラでやっています。この会場に展示してある作品の機材はコンデジ、一眼レフ、ミラーレスありと、混在しています。入り口入って正面の作品は、RICOH GR IIIで撮ったものになります。

ーいろいろな機材で撮影されているのですね。それは何か理由があったりするのでしょうか。

どちらかというと僕は物を長く使いたい方ですが、目が悪化していくことで見えなくなってしまって。カメラ店で片っ端からファインダーを覗き、少しでも見やすいものを探していていきついたのが、今使っているソニー α7 IIIです。

マットのあるなしによっても見え方が違ってきます!セレクトで大切にされたことをお聞きしました。「自分が気に入っているものというのもありますが、一番気を付けたことは偏りがなくいろいろなバリエーションがあるよう選んで組み合わせるようにしました」。

ー作品を拝見して本当に不思議な世界ですね。普段目にしている街の風景が新鮮なものに感じます。

僕からするとカメラで撮るものは晴眼者の世界であって、今の僕にとっては普通ではないものです。病気が進行して今の自分が見るものとカメラが撮るもの(以前見えていたもの)、その両方が分かるということは、自分にとって強みと思っています。

ー試行錯誤があったりの作品作りと思いますが、その経緯などお聞きしてもいいでしょうか。

もともと撮り始めて10年になります。師匠である所幸則氏に見てもらっていましたが、右往左往している時期が長かったです。こうして展示されているのを見て、一つのシリーズとしてやっていくには、長く続けられるものでないといけないとあらためて感じましたね。あれこれ考えているうちに目が悪化していき、普通には撮れなくなってしまって、その中で何をどうしようと悩んでいたときに、最初にお話したフィルムカメラのたまたま間違えて撮ったということがあって、それをきっかけに多重露光の作品を師匠のところにもっていき、はじめてお褒めの言葉をいただきました。

そのあとからはずっとこのスタイルで、仕事ではこういったイベント撮影の仕事などもあるので(展示されているピアニストの西川悟平さんの作品を指されて)、ストレートフォトで撮りますが、自分の作品制作としては「MONOCLE VISION」を撮っています。

ーモノクロ作品にされているのは……

僕には見えない色があって、例えば銀座の街は白黒にしか見えないです。車を運転していて日差しが強いとき目の前が真っ白に見えることがあると思うのですが、言ってみればその状態が僕にとっては多くて、色が分からない白黒のコントラストの強い世界にしかいないという状態です。目の前に色があるのは分かっていますが、それが日常なので…。

ただ作品では現像過程で白トビ、黒つぶれの調節以外はしないようにしていて、写真であるということを大切にしています。写真を重ねているので合成写真というくくりには当然なりますが、作品は僕にとって(自分が)見ているリアルな世界です。

ー今回の写真展でシリーズとして一区切りということでしょうか。

いや、どちらかと言うともっと攻め続けたいですね!

ーこれから撮ってみたい、行ってみたいところなどお聞きしてもいいでしょうか。

コロナが落ち着いたら、NYとマドリードにぜひ行きたいです。展示作品の中にもスペインで撮ったものが多いですが、スペインの第一印象は非常にコントラストが強い場所だなと。僕の作品もコントラストが強い作品が多いので、とても刺激になりました。NYは西川悟平さんが20年間活動されていた街なので、いつかは行って撮りたいと思っています。また個展に限って言うと、西川悟平さんのポートレートの展示を考えています。まだ作品が少ないので、そちらも今後撮っていきたいですね。

両目で同時に鮮明に見ることができない世界、そのアプローチは私たちにモノの本質というものを見せてくれます。この目まぐるしく変わる世界で私たちが何となくとらえている日常という輪郭。豊吉さんの目を通しての写真作品は、私たちにとってのギフトかもしれません。今現在の豊吉さんの集大成と言える作品の数々、ぜひご覧ください!

【豊吉 雅昭写真展『MONOCLE VISION』】
会期:2022年4月4日(月)〜4月16日(土)
10:30〜18:30(最終日17時まで)
会場:Art Gallery M84(日曜定休)
http://artgallery-m84.com/?p=9097

豊吉さんのWebサイト
https://toyokiti.com/