小林 みのる 写真展「旅晴れ。 ~南よりの風、風力1~」

レポート / 2017年10月6日

いつも自分のそばにあった「海」。

写真家の小林みのるさんは、旅先で好天に恵まれると、その土地から歓迎されたように感じるのだそう。それを小林さんらしく表現したのが、タイトルにある「旅晴れ」です。逗子や江ノ島、真鶴など、海沿いの町へ繰り出しては海岸線を歩き、琴線に触れたシーンを撮影しています。小田原で生まれ育った小林さんにとって、海は身近な存在。何かあってもなくても海へ行き水平線を眺めて過ごすのだと教えてくれました。

「作り込んだ画面構成ではないため、見た方がどういう反応をされるかワクワクしています。僕の作品が、皆さんの記憶の引き出しを開ける取っ手になればうれしいです」と、小林さん。

「同窓会で集まると、誰ともなく『海へ行こう!』と言い出して、皆で海へ行くんです。海はいつも自分のそばにあったもの。友だちと過ごすのも、告白や初デートも、失恋も、海での思い出ばかり。日常の中にある海、思い出の中にある海を写しました」

会場にはカラープリント18点と映像作品が展示されています。作品全体に共通しているのは、少し褪せた色調と、抑揚をおさえた画面構成です。小林さんは、初夏や秋などの寂しい季節に撮影し、色調に手を加えることで、自分の記憶の中にある海の色を表現したのだそう。
会場中央には、フレスコジクレーにプリントした3点の作品が、タペストリーのように飾られています。漆喰独特の質感と奥行き感が作品に深みを出し、じっと見ていると、しまい込んでいた昔の写真を引っ張り出して懐かしんでいるような感覚になります。

エレベーターから直結で店内に。画面中央に飾られている作品は、昭和のレトロな感じが残る江ノ島で撮影。少し外した画面構成は、海でぼーっとしている時の視界をイメー
ジしているそう。小林さんがリスペクトする、1980年代に流行した「ニュー・カラー/ニュー・ワーク」の写真家の作品の面影があります。

タペストリーのような3点の作品は、5月の逗子海岸のワンシーンを切り取ったもの。フレスコジクレーにプリントすることで、硬化した漆喰がインクを封じ込め、フレスコ画のように長期保存が可能となります。

「昔は8×10や4×5などの大判カメラでないと、人間の視覚を超える精密さで景色を切り取れませんでした。今はそれが、シグマのカメラで可能になっていることが幸せなんです」と、小林さん。写真集を手に。

「整理された画面構成ではなくて、歩いている中で出会った光景を切り取っています。中央に“しらす”の看板が写っている作品を撮ったときに、これまで漠然と撮影していた海の写真が頭の中で結びつき、写真展ができる手応えを感じました。風、空気、温度、日射し…そういったものが伝わればと、ワクワクしています。僕の作品が、皆さんの記憶の引き出しを開ける取っ手になればうれしいです」

ちなみに小林さんは鮮鋭度の高い「シグマ」を使っていて、作品づくりの際は3台のカメラを首からぶら下げて歩き回るのだと教えてくれました。
ぜひ会場へ足を運び、小林さんの作品をじっと眺めながら、自分の思い出探しを楽しんでみてください。

【小林 みのる 写真展「旅晴れ。 ~南よりの風、風力1~」】
会期:2017年10月4日(水)~10月14日(土)
10:00~18:30
会場:EIZOガレリア銀座(日曜・月曜定休)