4.5

4.5
高崎 勉
2016/08/15 ~ 2016/09/03
Exhibition Archives

 海と空の境界線。遙か彼方に思える水平線までの距離は約4.5kmらしい。そうだと知ると意外に短い距離に思えるが、「夢」や「幻」のように永遠に辿り着けない距離感が拭えない。
 緩やかに弧を描く一本の線の両側には、生と死がある。打ち寄せる波の音の隙間からは、そこに潜むものたちの息づかいが聞こえるようで不安な心持ちになってしまう。都会で暮らすようになってから気付いたことだが、北陸の地で育った僕は自然に対する畏怖の念が人よりも強いようだ。
 空と海が共鳴し合って作り出されるその色に惹かれ、徐々にレンズを向けるようになった。時には南の島で夕暮れを惜しむように、そして時には夜明け前の雨の中で靄に包まれながら。
 海は僕にとって、気楽に対峙出来ない、激しい芸術のような存在だ。「癒し」という言葉が当たり前に使われるようになってから久しいが、都会化された日常で偏ってしまった心を揺り動かしたあと、砂をならすようにバランスを均整してくれる。その感覚をいつまでも忘れないようにと、浜で見つけた貝殻と一緒に4.5km先にピントを合わせた風景をカメラに収め、僕は街に帰るのだ。

高崎 勉