石井 直樹 写真展「Floral Fantacy」

レポート / 2019年3月27日

~山に咲く小さな花々の美しさを抽出した絵画のような作品~

会場にて、石井直樹さん。360度眺望を表現したパノラマ作品の前にて。
「長野の自然はスケールが違いました。すごさに魅せられ、花の咲く気候の良い時期は長野のアトリエで過ごし、天気の良い日は毎日のように山に登って撮影しています」と、神奈川生まれの石井さん。同じ場所を繰り返し登るのが好きだそうですが、チャンスがあれば他の山へと広げていきたいと展望を話してくれました。

登山好きと写真好きが高じて、40年ほど前から山の姿を撮りはじめたという石井直樹さん。次第に撮るものが新緑や紅葉へと変化し、最近はさらに目線を下げて亜高山帯から高山帯に咲く花々を撮っています。

左から、ムラサキヤシオツツジ、アズマシャクナゲ、ハクサンシャクナゲ、サラサドウダン。特にサラサドウダンは、一房についた花がすべて綺麗で鮮やかなのは珍しいそうです。また、一瞬の光が射し込んでできる陰影がとても美しい。

石井さんは長野のアトリエを拠点に、春から秋にかけて毎日のように浅間連峰や八ヶ岳周辺などに登り、見落としそうなほど小さい花々を這いつくばるようにして撮影しているそう。コミヤマカタバミ、イブキジャコウソウ、シャジクソウ、ツマトリソウ、アズマシャクナゲ、サラサドウダン…。1~2cmほどの小さな花が、光を浴びて柔らかいフォルムを描きながら生き生きと咲く姿は美しく絵画のようです。

左から、イブキジャコウソウ、コマクサ、リンネソウ、シャジクソウ。大抵、それぞれの花の時期は1〜2週間。週替わりで順番に花が開花していくそうです。その中で1輪の花の開花ピークは3日ほど。リレーのように咲くのは、受粉期間を少しでも長くしようという自然の知恵。

「さまざまな要素が複雑にからみあい、混沌とした大自然。しかし、忍耐強く観察していると、大自然は一見混沌とした世界の中に、ある種の秩序を伴った美の世界を必ず垣間見せてくれます。私は、その美的世界を、山や高原の花、木々、森をモチーフとして表現したい、あるいは創造したいと思います。その際、その場の自然の環境下で光の当たり方やボカし方などを工夫し、背景の省略や抽象化した表現を意識しています」

「花の種類を説明する写真を撮るつもりはありません」と、石井さん。花をモチーフにしつつも、淡い輪郭やグラデーションが幻想的な世界を作り出しています。手前から、コミヤマカタバミ、ハクサンイチゲ、イワツメクサ、カラマツソウ、オサバグサ、ハクサンチドリ。

会場には、山に咲く花々をモチーフにした30点の作品が並ぶほか、湯ノ丸山頂からの眺望を写した作品も展示されています。縦32cm×横3m60cmの迫力あるパノラマ画面に、花のシーズンの始まり(初夏)と終わり(初冬)の姿が対比的に並べられていて、遮るもののない 360度眺望は見応えと迫力満点です。

湯ノ丸山頂からの360度眺望を写したパノラマ写真。
上が初冬、下が初夏と対比的になっています。展示の手前が北峰の眺望で、八ヶ岳、霧ヶ峰、中央アルプスなどが連なっているのが見えます。

湯ノ丸山頂の南峰の眺望。上が初冬、下が初夏。遠くに浅間山や富士山などが見えます。3m60cmのワイドパノラマの迫力と、美しい奥行きは、石井さん独自の技術で作り上げたそうです。
「個展をするようになって、人に観られることを意識するようになりました。作品づくりにおいても、自分の中にある〈美〉を表現することに注力するようになってきました」と、石井さん。長く見ていたくなるような作品を撮りたいと、話してくれました。

ぜひ会場へ足を運び、小さく咲きほこる高山の花々の、凛として柔らかい姿に、心を癒されてみてはいかがでしょうか。会期中、石井さんは全日在廊されているそうです。

【石井 直樹 写真展「Floral Fantacy」】
会期:2019年3月25日(月)から3月30日(土)
11:30~19:00(最終日は17:00まで)
会場:ギャラリー檜 B・C
http://hinoki.main.jp/