Art Gallery M84にて、年2回行われている「アートの競演」で意気投合した3名の作家。谷 明さん、野田 光治さん、北尾 辰也さんの展示にお邪魔してきました。
ー立体作品からお聞きしてもいいでしょうか。
谷さん:彫刻作品で翼がテーマになります。何でそのテーマにしたのかというのは、西洋美術の基本的なものでもあり、人間は飛ぶことができなくて、空への憧れをもっています。要素をそぎ落としていって、動きの一瞬を切り取ったような造形にしました。
イカルスの翼、サターンの翼、ダイナモの翼というタイトルの3点で、イカルスの悲劇という神話のメタファー、堕天したサターンの黒(悪)と対比する赤(聖)というイメージです。ダイナモの翼では、SDGsで風力発電が注目されていますが、カルダ―の彫刻のように風で動き、尚且つ発電できるといった提案をしています。
谷さん:ここに紙コップがあるのですが、こちらから見ると円形ですが、横から見ると台形ですよね。ボードリヤールの『モノの世界』のように、キュビズムのように立体に視点を変えて撮ってはどうかと思ったのがきっかけですね。
いろいろな視点から撮って、それをレイヤー化するとモノの本質が出てくるのではないかと思いました。これは (上記右側の作品) 秋葉原の交差点を撮ったものですが、いろいろな角度から撮る中で人の動きは消えてしまい、20枚ぐらいをレイヤーにして重ねたものです。
そうすると先ほどの紙コップと同じようにいろいろな角度から見えるものと同じように、レイヤーの奥からモノの本質みたいなのがにじみ出てきます。こちらのシリーズは「Hidden Image」とよんでいます。
シンプルと多層化という彫刻作品と写真作品でのアプローチはそれぞれ違うように見えるのですが、そうやって物の本質に迫っているんだなと。どれも見れば見るほど味わい尽くせないような奥深さがある作品ばかりです。
ーカラーとモノクロの作品が展示されていますが、作品について教えてください。
野田さん:カラー作品はキャンバスプリントになり、雨の夜をテーマにフランス、バルセロナ、フィレンツェを撮ったものになります。
ー夜の写真をキャンバスでプリントすると、趣きがあって面白いですし、フレームも立体的で絵画のようですね。
野田さん:キャンバスにプリントしますと絵画風になり雰囲気が増します。(油絵のように)木枠に作品をとめていますので、外枠のフレームを外してもそのまま飾ることもできます。
ー雨の夜を選ばれたのはなぜでしょうか?
野田さん:ヨーロッパの夜とその照明という二つの要素に、雰囲気と物語性がすごくあるなと思って撮りはじめたもので、「雨夜」というシリーズになります。
何かワンポイントになるものを作品に入れるようにしていて、人物を入れることが多いのですが、見る人に物語性を感じてもらえるような作品を目指しています。
ーモノクロ作品について教えてください。
野田さん:モノクロ作品はコロナになる前の年(2019年)にパリで撮ったもので、パリに住む人たちの息づかいをスナップでとらえたものになります。
パリの良さは昔のままの姿(建築物など)と、そこに住む人たち。昔のものを大切にしつつ自由奔放に人生を楽しむ人々の姿を追っています。
ー現在海外に行けない状況ですが?
野田さん:今は国内を中心に撮っていて、出身が京都ということもあり京都にもこの一年で4回ほど行きました。山にも登っているので、昨年は百名山の北岳を撮りました。コロナのおかげで、国内の魅力に気づいたと言えますね。
昨年の4月から京都芸術大学 通信教育部の写真コースに入学されて、写真を一から勉強しているという野田さん。今まで撮ったものも、違う視点を加えることで違うものが生み出せるかもしれないと話されていたのが印象的でした。私たちには気づきえない魅力が引き出された新作を拝見するのが楽しみです。
ー波をテーマにされた作品ですが、こちらを撮られるようになったきっかけなど教えてください。
北尾さん:特に白波の造形が好きなのですが、単に造形だけでなく、白波や波はどうして生まれるのだろうというところからイメージを発しています。
波は引力なくしては生まれませんし、陸に当たることで生じる白波も、一つ一つの模様をとっても複雑なものですが、その一連の流れすべてがおそらくシンプルな物理法則に則って動いていて、シンプルな法則=宇宙を形作るようなものにつながると思っています。
もともと波が好きで撮っていたのですが、波の動きは本当に不思議で、そこに理系的な観点を加えたのが、今回のシリーズになります。
ー世界を形成する要素の中から波の形ができあがっているようですね。
北尾さん: 必然のような偶然なようなものでしょうか。あまりに複雑なものに見えるので、偶然のように感じられますが、それは世の中もそうで、人間の出会いもそうですよね。
ー落ち着いた色味の作品ですが、これは作品を作る際にイメージされているのでしょうか。
北尾さん: 宇宙がイメージにあるので、(宇宙を)連想できるようなカラーと思っています。明るく鮮やかなものではなく、むしろ暗く抑え目にしていて、シャドウ部分に魅力が隠されていると感じています。
ー撮られるところは決めていらっしゃるのでしょうか。
北尾さん: 見てもらうと分かりますが全て俯瞰でドローンで撮っていて、Googleマップでロケハンしながら、行きやすいところを見つけています。この(ドローンで撮る)距離感は、作品性が盛り込みやすいと感じていて、波と海岸を中心に、もっと探求して撮っていきたいなと思います。
波というテーマを通して地球というものを感じました。それは普段私たちが海岸で見る波の姿からは感じないもので、ドローンという距離感からだからこそ生まれたものだと思います。ドローンでのアートフォト、また進化した作品を拝見するのが楽しみです。
作品のジャンルも違う三者三様の作家たちによるアートフォトの競演、ぜひご覧ください!
【谷 明、野田 光治、北尾 辰也『 3人によるアート作品展』】
会期:2022年1月24日(月)〜2月5日(土)
10:30〜18:30(最終日17時まで)
会場:Art Gallery M84(日曜定休)
http://artgallery-m84.com/?p=8976