【パリブログVol.25】アートフェアー 〜コレクターを探す旅〜

パリブログ / 2024年6月14日

ギャラリーでの展示の合間に、なるべくアートフェアへ出展するようにしている。目的は作家とギャラリーを知ってもらうことだ。パリでギャラリーをオープンしてもうすぐ4年が経つが、まだまだ知名度があるとはいえない。それがパリ以外の地方、ましてや外国となるとほとんどが、ギャラリーも作家も「はじめまして」の状態。作品を一度に数千人、多い時は数万人に見てもらえるアートフェアに展示して、作品とコレクターとの出会いの場を作る。ストライクゾーンに入る方が、数十人いたらOK。その中で数人が購入してくれたらラッキー。アートはそのほとんどが万人受けするものではなく、ある特定の極めてニッチなターゲットを対象とする商材だ。一つの作品を売るのにこうして、大勢の人に見せることが必要な、非常に効率の悪いビジネスなのだ。

これまで参加してきたアートフェアについて振り返る。

直近では、5月末から6月上旬にかけてフランス・ボルドーで行われたBAD+。第3回目の開催となる現代アートとデザインのフェアだ。ガロンヌ川沿いの展示会場は他の会場に比べると小規模だが、開放的で明るく、とても気持ちがいい。フランス国内を中心に良いギャラリー、アーティストが集まっているものの、まだ歴史が浅いせいか集客力が弱い。他のフェアのように定着するにはまだ数年かかりそうだ。

4月にはイタリア・ミラノのMIA PHOTO FAIRに出展した。写真専門のフェアは決して多くないので、我々にとって非常に貴重な機会だ。出展ギャラリーはイタリア国内が中心。このフェアは昨年会場が良くなかったようで、今年から大規模なカンファレンスセンターの一角に変更された。昨年パリから出展していた有力ギャラリーが軒並み撤退していたので、当日を迎えるまでになんとなく察したが、来場客の大多数を占めるイタリア人はなかなかお金を出さない。それから、特定の世代は英語教育を受けていないのかコミュニケーションが難しい時があった。オーガナイズに関しても、他のフェアと違って毎年ざっくりとした「テーマ」を掲げて出展作品をそれに沿ったものにする方針にしている。今年のテーマは「Changing」で、作品選定にアートデイレクターがかなりしつこく口を出してきた。アムステルダムのフェアで一回、その後Paris Photoの時期にもギャラリーに来た。ギャラリーの立場に立って親身に検討してくれるのなら大歓迎だが、正直なところ本人の好み、フェアの統一性を重視しているだけに思えてストレスだった。
同じ時期に同じ主催者が現代アートのmiartというフェアをすぐ隣の会場で開いていて、この時期はそちらの方にアートコレクターの足が向かっているようにも感じた。

昨年の11月には、南仏モンペリエのArt Montpellierへ。フランスでは第8の都市といわれ、地中海性気候の過ごしやすい気候の街だ。フランスの地方はパリから電車で3時間ほどで移動でき、意外とアクセスがよく人の往来も頻繁にある。それにパリにギャラリーがある、というと「何区のどこの通り?」とよく聞かれる。学生時代や会社員時代など、フランス人は人生のどこかのタイミングでパリに来ているようだ。彼らがパリに来るときに立ち寄ってくれることもあるだろう。フェア自体は、典型的な“地方のアートフェア”という印象で、強い購買力や来場者が見込めるわけではないが、HPやSNSを通じて、作品を紹介してくれて、それが販売に繋がることもある。地方のフェアは初めてだったので、様子を知ることができて良かった。

これまで参加したフェアの中で、規模も大きく知名度も一番高いのがUNSEEN AMSTERDAMだ。オランダ人のオーガナイズは非常にスムーズだし、ガス会社の跡地を利用した会場Westergasは回遊性が高く、来場者の購買意欲も旺盛だ。オランダ人はほぼバイリンガルで、英語でのコミュニケーションも問題ない。外国からもコレクターが作品を探しに来る、非常に質が高いアートフェアだ。これまで2回参加したが、他のどのフェアよりも作家の作品を受け入れてくれて、来場者と話をしていても嬉しい言葉をたくさんもらった。やはり貿易で栄えてきた国で“違うもの”を受け入れてきた国だからだろうか。街も綺麗で人も親切。毎回Unseenをきっかけにアムステルダムに出かけるのは楽しみだ。

アートフェアは、一度に大人数に作品を見てもらえるメリットはあるが、決して魔法の杖ではない。出展費用の経済的な負荷も高いし、フェア前後の準備も大変だ。現状では広告費と割り切って、(実際、広告費も同じくらいの費用がかかる)精力的に出展しているが、2年後、3年後には出展するフェアを絞って、他のコマーシャルギャラリーと同じくらいに戦っていきたい。