愛知県知多郡美浜町野間

愛知県知多郡美浜町野間
産業編集センター 出版部
2024/10/15 ~ 2024/11/15
愛知県知多郡美浜町野間

【旅ブックスONLINE 写真紀行】
産業編集センター出版部が刊行する写真紀行各シリーズの取材で訪れた、全国津々浦々の風景を紹介しています。
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黒板塀の農家建築が建ち並ぶ、塩長者たちの町

 田子は、西伊豆の景勝地として知られる堂ヶ島の北の隣にある漁村集落である。田子というユニークな名は、地元の創祀年代不詳の古社・哆胡神社からきているといわれる。
 山と海の狭間にある平地は非常に狭く、幾筋にも分かれる細い路地に沿って小さな家々がびっしりと肩を寄せ合うように建ち並ぶ、典型的な漁村風景が展開している。
 田子は昔から漁業一本で生きてきた村で、特にカツオの一本釣りの漁港として発展してきたが漁業だけでなく加工業も盛んで、「田子節」と呼ばれる名物の鰹節をはじめ、塩辛、塩かつお、かつお醬油などの製造販売も行ってきた。江戸時代、田子の名主だった山本家は、田子節を江戸にも出荷していたというから大したものである。狭い路地を歩いていると、突然に立派ななまこ壁の大邸宅が出現して驚かされるが、その頃カツオ漁とその加工で財を成した商家の名残りだろうか。
 もっとも、以前はなまこ壁の重厚な蔵や屋敷が建ち並ぶ、漁村としては珍しい家並みだったそうだが、残念ながら現在はほとんど残っていない。通りがかりの老人に尋ねると、「昔はなまこ壁だらけの村だったが、どんどん減ってしまった。ついこないだまでそこに三軒ほど並んで建っていたなまこ壁の家も、壊されて駐車場になったばかりだ」とのことだった。もう少し早く訪れていたら、なまこ壁だらけの漁村が見られたのかと思うと、残念でならない。

※『ふるさと再発見の旅 東海北陸』産業編集センター/編より抜粋