武藤 奈緒美 写真展「朝をみた。~アイスランドの車窓から~」

レポート / 2019年2月15日

~冬の朝の光で見る、アイスランドの日の出~

会場にて「自然光が好き」と、武藤さん。アシスタント時代、あるカメラマンの「太陽は一つだから、面光源にしても点光源にしても1方向からにすればいい」という言葉に、照明に対するヒントをもらい、それ以来、フォトグラファーとして活動する上で迷った時はこの言葉に立ち返るそうです。今回の写真展では、三面から入る光のうち二面を塞ぎ、光が一方向からしか入ってこないようになっています。「家の中に写真を飾ると、自然光で見ることになるでしょ。ギャラリーの照明とは違う、天然の光で自分の作品を見たいというのが、今回の展示を思いついたきっかけ。自分が見
たいからという、実験的な意味もある」。

凛と空気の冷えた東京の冬の早朝。真っ暗だった室内が、日の出とともに薄明かりを受けて色づき、少しずつ作品の形が露わになっていく。B0サイズに大きくプリントされた作品に写っているのは、フォトグラファーの武藤奈緒美さんが北欧の島国・アイスランドで見た日の出の瞬間。

朝6時半の薄明かりで見る作品。B0が3点と、B1が2点の計5点が飾られています。「寒い時は寒くていいし、暑い時は暑くて当たり前。なるべく便利であることに寄りすぎないようにしたいと思っている」と武藤さん。暖をとれるのは1台のヒーターのみで、あえて暖房をつけていないため、コートを着たまま作品に対峙してほしいとのこと。凛と冷えたアイスランドの朝を追体験しているような感覚で、楽しめます。ちなみにアイスランドは日照時間が短いため、11月の日の出は午前9時半頃。すでに人々の生活は始まり、子どもは学校へ行っている時間帯。真っ暗な中にポツポツと灯る明かりに、アイスランドの人々の息遣いを感じます。

落語の欧州公演ツアーの帯同カメラマンとして2017年11月に初めてアイスランドを訪れた武藤さんは、移動のバス車中で真っ暗な外を眺めていたところ、いきなりスポットライトが当たったように光が差し込む瞬間を見て、「これが朝の光⁉︎」と新鮮さを感じ夢中でシャッターを切ったそうです。

午前11時頃の会場。ある意味で、太陽のありがたさをしみじみと実感します。16(土)、17(日)のほか、18(月)は日没までOPENしているそうなので、朝の苦手な方は動きやすい時間に行くことができます。「フリースタイルでやっているので、朝ごはんを持参しても、スタジオにある畳に横になって眺めてもOK!」と、武藤さん。展示されている作品は、小屋などが写ったスケール感の分かるものを選んだそうです。また、会場に流れる音楽も展示の楽しみの一つ。スローな低音の楽曲から始まる音楽は、音楽ライター・石角友香さんが選曲したそうです。

「アイスランドの大きな景色の中をわずかに照らす狭い光を見て、朝が来ることのありがたさを体感したんです。日本では当たり前のことだけど、太陽がありがたいことに実感が伴った。このアイスランドの日の出を、東京の朝の光の中で見てみたいと思いつきました。光が移り変わる様子を、椅子に座ってお茶を飲みながらぼーっと見てもらいたい。特に朝7時の光がオススメ!」

行く前はアイスランドのことを何も知らなかった武藤さん。首都レイキャビックから離れた郊外は、厳しく日本にはない風景が広がっていたそう。「もう一度行きたい。一度目は初めてのものばかりでわーきゃー言ってましたが、二度目はもっと落ち着いて踏み込める予感がする。晒されたい、直面したい、大きいものに圧倒されたい!」と、今後の抱負を語ってくれました。

会場は武藤さんの個人スタジオ。仕事の徹夜明けに見る朝の光がきれいだと普段から感じていたところに、今回の展示の方法を思いついたそう。その瞬間は、まだ柔軟な発想ができる自分に安心したと同時に、感性に年齢は関係なく自分次第で楽しめるのだとワクワクしたと言います。

4階廊下の突き当たりが、会場となっている武藤さんのスタジオです。
「これからも不定期で続けていきたい」と武藤さん。今回の展示を皮切りに、自分を楽しませられるコンセプトの展示をしたいと、意気込みを語ってくれました。

平日は朝の6時半から9時の2時間半のみOPENというアグレッシブな時間設定ながら、ギャラリー照明とは違う自然光で見るアイスランドの朝は、心を満ち足りた気持ちにさせてくれます。
作品が気になる方をはじめ、太陽のありがたさを再確認したい方や、朝の時間を活用して感性を刺激してみたい方は、ぜひ早起きして会場へ足をお運びください。

【武藤 奈緒美 写真展「朝をみた。~アイスランドの車窓から~」】
会期:2019年2月12日(火)~2月19日(火)
平日 6:30~9:00/土日 6:30~日没
※2月18日(月)は特別に6:30~日没までOPENするそうです
会場:studio武藤
東京都渋谷区代々木4-28-8 代々木第一村田マンション401

武藤さんのツイッター
https://twitter.com/naomucyo

武藤さんがカメラマンとして帯同した落語の欧州公演をまとめた書籍『柳家喬太郎のヨーロッパ落語道中記』(フィルムアート社)が、2月26日に出版されるそうなので、興味のある方はそちらもお楽しみください。

他にも、高円寺で行われている演芸まつりにて、武藤奈緒美写真展「入船亭扇辰 欧州公演」が2月17日(日)まで開催されています。興味のある方やお近くの方は足をお運びください。
会場:koenji HACO(東京都杉並区高円寺南3-69-1)
http://koenjihaco.com/h_access.html