山田 博行 写真展「Apppppppleee」(アップル)

レポート / 2019年1月28日

~初雪の白とリンゴの赤が重なる一瞬の幻想世界~

会場にて、山田博行さん。「こういう形にまとめるつもりはなく、目の前のことに対して写真を撮りたいなと思いフィルムでスナップ撮影をしました。20枚くらい。ピリッとした寒さの中で、冬の訪れを告げる初雪はとても魅力的です。薄く積もった雪が余計なものを覆い隠し、さらに雑音を吸収した静かな世界は、幻覚感があります」と、撮影エピソードを語ってくれました。

険しい雪山やアラスカの氷河などを追い続けている写真家の山田博行さん。悠久の自然が見せる美しい空気感や、極寒の地に暮らす若者たちの清らかな姿をとらえてきました。山田さんの作品に共通しているのは、悠久の自然がもつ生命力と清らかで儚い空気感です。
初雪は、雪国で育った山田さんにとって長い冬に切り替わるタイミングを知らせてくれる神聖なもの。秋と冬が重なる瞬間は、美しい幻覚を見ているような不思議な感覚になるそうです。

温度の白、静けさの白などを表現するために、山田さんがプリントの際に苦労したという「白」を見たい方は、ぜひ会場へ。初雪部分が、画面の余白となり、見たい部分にのみ視線を運ばせる効果をもたらしています。また、リンゴの木そのものが写っていないところが、ドキュメンタリーでありながらファインアートの世界に感じる所以かもしれません。

今回の写真展では、初雪がパウダーシュガーのように薄く降り積もったリンゴ畑の幻想的な姿をとらえた8点の作品が並びます。
リンゴの収穫直前に初雪が降り、しかも薄く積もった初雪が日光で溶けるまでのほんの1時間ほどの出来事をフィルムで撮影したというこの作品。地面の草を覆う真っ白な雪が周りの音を吸収する無音の世界で、たわわに実ったリンゴの赤が目に飛び込んでくる情景は、写真というより美しいファインアートの世界です。

「儚いものが好きです。例えば地球温暖化により予想以上の速度で後退しているアラスカの氷河もその一つ。二度と出会えないような世界を残していきたいと考えています」と山田さん。

「地面の白と空の白の空間に、リンゴの赤が点在している幻想的な世界を初めて見た時、こんな美しい瞬間があるんだ!と感動し、シャッターを切りました。これから長く厳しい冬が来ることをあらかじめ知っているかのようなリンゴの赤い発色は、まさに自然の生命力だと思います。同時に、地球温暖化により見ることができなくなってきている儚い日常を写真に残すことに惹かれます」

写真右が、1月末発売の写真集『Apppppppleee』(1,400円)。リンゴの葉をイメージした緑糸を
使い、手作業で綴じています。「p」と「e」がたくさん連なっているのは、リンゴがたくさんあるイメージを表現しているそう。遊び心とこだわりのつまった写真集です。
写真左はアラスカの麓で暮らす若者のコミュニティを写したファースト写真集『Tuesday』。また奥のbookスペースには、ブエノブックス発刊のアートブックが並んでいます。

暗室でのプリントでも、温度の白、静けさの白など、雪の白い部分の表現に苦労したのだと、山田さん。豊かさと美しさを備えたシンプルで幻想的な世界に惹かれた方は、ぜひ会場へ足をお運びください。
写真展にあわせて印刷や装丁にこだわった同名の写真集『Apppppppleee』が発売されます。

【山田 博行 写真展「Apppppppleee」】
会期:2019年1月25日(金)~2月28日(木)
13:00~18:00
会場:SLOPE GALLERY(休廊:土日祝)
https://www.buenobooks.com/slopega…/exhibition_hotfudge.html

山田博行さんのWebサイト
http://yamadahiroyuki.com/