by the sea 湘南

by the sea 湘南
太田 有美子
2018/06/13 ~ 2018/06/25
リコーイメージングスクエア東京 ※2022/3/28営業終了

もう四十年近く逗子に住んでいる。でも海を身近に感じたことがなかった。海は当たり前にそこにあるもの、そう思っていた。転機は突然訪れた。写真家を目指すことになったとき、どちらかというと小さなものに目を向けていた。足元ばかりを見て歩いていた。海へ行ったのは最初はほんの気分転換のつもりだった。家から車で15分、坂を下るとそこに海がある。そっとレンズを向けてみた。そこで見たものは燦々と砂浜に光注ぐ太陽、ゆるやかに弧を描く砂浜、繰り返し寄せては返す波、江ノ島を抱くようにそびえる富士、砂紋の間にキラリと光る桜貝、そして釣り人や波と戯れる子どもたち、海はやさしく包み込んでくれた。全てが新鮮に見えた。海はいつでも私たちを待っていてくれる。そっと潮風をうけひとりたたずんでみる、すべてを包み込む癒しの空間、それが・・・海。そうだ、海に行こう。今すぐに・・・

 


 

海への祈り

 カメラを持って海へ行ったのは何年ぶりだっただろう。湘南の海とはドラマチックなものを頭でイメージしていた。久しぶりに砂浜で見たものに驚いた。幼き頃の自分のように波と遊ぶ子供たち、新しいスタイルで自分なりの海辺の生活を楽しんでいる大人たちの姿だった。新しい発見だった。そこで海に通ってみることにした。繰り返し押し寄せてくる波は日によって、また風の強さ、時間によって量と質が全く違ってみえた。まるで地球という生き物の呼吸と鼓動をみているようだった。
 ある時、砂を集めて持ち帰ってみようと思った。海岸で砂を探してみると、あると思った場所に砂はなかった。その場にあったのは無数の貝殻の破片だった。知らなかった・・・見ていなかった。生き物の息吹を全く感じていなかった。それから心を新たに海岸にあるもの、見つけたものを記録しようと思った。見ようとするか、また見つけようとするかどうか、それはすべて自分の心にかかっている。そして海は新たな表現の無限的な可能性を秘めている場だと知った。
 これからも海岸に立ち、波音とともに静かな時間を共に過ごせるよう、心から海への祈りを捧げたい。

太田有美子