小林裕季 写真展「都市のかけら」

小林裕季 写真展「都市のかけら」
小林 裕季
2024/06/18 ~ 2024/06/30
TOTEM POLE PHOTO GALLERY

浜辺に行くたびにお気に入りの小石を探してしまう。なかなか見つからない浜もあれば、すぐにいくつも見つかる浜もある。一つも見つからないということなどしょっちゅうだ。波に洗われ優しく丸みを帯びた色とりどりの貝がらやプラスチック片や鈍く光るガラス片に混じって美しく存在感を放つ小石に出会うと、ハッとして拾い上げ、感触を確かめ、そっとポケットにしまい込む。飽きもせず時間も忘れて夢中になり、今回こそはと特別な出会いを求め探し続ける。自然の力が作り出した細部に宿る様々な色や造形はまるで草原に一斉に咲き乱れる花々の群落や夜空の無限の星たちのようだ。眺め続けているうちに眩暈に似た感覚を覚える。まるで自分の存在が透き通り、砂浜と一体になったような心地に包まれる。地球の悠久の時の流れと、その時々の環境の中でつくり出された一見なんでも無い小石には、壮大な物語が詰まっている。

家にある小石たちを手のひらに乗せるたび、僕はそれぞれの浜辺と時空を超えてつながることができる。砂浜のかけらである小石は、僕にとって、あの浜辺で透明になる瞬間を追体験するための大切な装置なのだ。

アメリカ東海岸で7年ほど暮らした後、長男の誕生をきっかけとして2013年から10年ほど東京で暮らした。新しい生活が始まり、以前暮らしていた頃は当たり前すぎて見過ごしていた様々なものに目がいくようになっている自分に気づいた。いくら歩いても歩き尽くすことができない無数の路を歩きながら、東京という唯一無二の巨大都市のかけらを探し、レンズを通して拾い集めた。歩きながら、自然災害や戦争で何度も破壊されながらも逞しく再生を繰り返し、時代の波にもまれ変貌を遂げてきたそれぞれの街の成り立ちや、人々の営みが作り出す空気感を肌で感じた。自分の中の東京の地図は立体的、重層的に次第に塗り替えられていった。満員電車の乗客の肩越しの車窓から、以前歩いた街が垣間見えるだけで、それぞれの路地のディテールや匂いまでありありと思い描くことができる場所がどんどんと増えていった。

東京での生活の合間に直感的に撮り溜めた大量の写真群を眺めながら、デスクの上に転がる小石たちとこれらの写真の違いは一体何なのだろうと考えている。一見全く違うそれらは僕にとって、ある意味において等価なものなのかもしれない。仮に東京という都市が無数の砂粒や様々なもので形作られた浜辺だとしたら、これらの写真はその浜辺で見つけた小石たちだ。これからも、どこの浜辺に行こうと、僕はお気に入りの小石を探し続けていく。

 


 

小林裕季 写真展「都市のかけら / Toshi no Kakera」
会期:2024年6月18日(火)〜6月30日(日)
   12:00 – 19:00/月曜休廊
会場:TOTEM POLE PHOTO GALLERY(https://tppg.jp
   東京都新宿区四谷四丁目22 第二富士川ビル1F   

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