命の起源

命の起源
前田 博史
2010/05/21 ~ 2010/06/03
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静寂な森の中に深く沈み込んでみる。
聞こえてくるのは穏和で重厚な命の気配(ささやき)。それはそこに暮らす
動物や植物のものであったり、時には谷を流れ下る水や、山腹に踞っている
土や岩の発するものであったりもする。気の遠くなるような長い時間の積み
重ねによって生じているであろうこの気配は、森全体を柔らかく包み込み、
森そのものをひとつの生命体として成り立たせているようだ。
森は廻りゆく時間を持っている。概ねゆったりと循環してゆく時間の中で、
あらゆる命が当たり前のように芽生え、当たり前のように枯れてゆく。すべ
ての命は、ただ生きるためだけに生き、死ぬためだけに生きている。全身全
霊を懸けて個としての使命を全うした命は、気配として森の中に蓄積され、
森という名の生命体を支えるオーラとなって生まれ変わる。
そして悠久の時の中を永遠に生きてゆくのだ。
連綿と続いてゆく森の時間。その中に身を置き、そこに流れる時を共有す
ること、それはこの上もなく幸福な時間である。
 
今我々は、自分たちの持つ価値観を再考し、修正していかねばならない時
期にきている。一方向からの偏った主観からは、やはり偏った世界しか生まれない。
森の生き方のように、正も誤も、優も劣も、生も死もなく命を考えたい。
そこに在ってそこに生きるということの意味を考えたい。
すべての調和。それは宇宙の真理であり、それこそが命の起源なのだから。 

会場:エプソンイメージングギャラリー・エプサイト