ゴトウヨシタカ「Mission : Nolan」インタビュー

2021年3月17日

京都写真美術館ギャラリー・ジャパネスク2Fにて、ゴトウヨシタカ 写真展「Mission : Nolan」を2021年3月9日(火)から3月21日(日)まで開催しています。作者のゴトウヨシタカさんに制作意図などについてインタビューしました。

作家のゴトウヨシタカさん

−今回の写真展「Mission : Nolan」を製作されたきっかけはなんですか?

 今から8年ほど前、撮影で香港に行った時に、あるギャラリーでグラフィックデザイナーの個展が催されていました。その世界観は世紀末的な雰囲気を醸し出したグラフィック作品で構成されており、自分は写真を通してその作品のような雰囲気を、「多重露光」という技法を用いて作り出せないかと考えました。
 実際に「多重露光」の写真を撮り、現像して知人に披露したところ、「クリストファー・ノーラン」の世界観を連想させるといったコメントをもらいました。それを機に実際ノーラン監督の映画作品を観てみると、「時空」の交錯する作品として共通するところがあると認識しました。
 それ以来毎年のように撮影を繰り返していき、作品点数がたまってきたタイミングで京都写真美術館で写真展を開催できることになりました。
 和を基調とした設えであるギャラリーであるため、色を排除したモノクロで統一して展示しようと思いました。

本展覧会メインビジュアルの「Gotham City」

―ノーラン監督の世界観を、なぜ写真で表現しようと思ったのですか?

 私自身写真を専門としておりますので、自らの土俵で表現できたらと思ったからです。CGをできる限り排除しアナログにこだわる彼の作風は、自ら重なるところがあります。そうした彼の作品によくみられる時間と空間の交錯は、撮影場所を異にし、さらに時間を一定時間空けることで、独特の世界観を創出するのに努めました。

時空間が交錯する作品群

―いっけんしたところ、デジタル合成に見えるのですが、アナログで作られているのですか?

 これは多重露光の技法の一つの「フィルムスワップ」で、それは次のような手順で行います。
 一度撮影を終えたフィルムを巻き戻した後にカメラから取り出し、通常はその時点で現像をします。しかしここで現像をせずにそのフィルムを再度カメラに装着してまた1枚目から上書きをするように撮影をします。この撮影が終わったら現像を行います。さらにレンズの上半分や下半分をそれぞれマスキングして撮影することによって全体が重ならないようにすると言う完全アナログな方法で撮影をしています。

フィルムスワップの流れ

―「フィルムスワップ」技法について、2つのイメージを重ね合わせるうえで意識したことはなんですか?

 1回目の撮影を行った後に、異なる時間・場所で2回目の撮影を行う際、以前の写真のどのタイミングと重ねると良いイメージが出来上がるかを計算しております。今回の作品群のほとんどがそのような狙いをもって表現しております。
 例えば下に示す写真について、とりわけ撮影にこだわりました。
「Next to nature」は、右半分が香港の集合住宅で左半分がアイスランドの滝となっておりますが、人々の生活の背景のすぐそばに自然が共存しているという思いを表現しようと試みました。建物と滝のサイズ感が同じになるという瞬間を狙い、また同じ目線を意識して角度や距離感を統一に努めました。
 先述したようにほとんどの作品が何らかの意図をもって撮影したのですが、偶然の産物として2つの写真が良いタイミングで重ね合わさったものもあります。
 「Planet of the apes」は自由の女神と海辺の写真を重ね合わせたものですが、上半分と下半分をランダムに撮影を行いました。はじめアメリカで上半分を撮影した後で、日本の海辺にてモデルさんを撮影していたのですが、自由の女神の基壇に波が偶然あたって飛沫があがっているという構図がとれました。アナログならではの醍醐味を表現できたと思っています。

―鑑賞者にはどのように楽しんでもらいたいですか?

 単純に楽しんでもらえればと思います。ノーラン監督のことを知らない方は、この不思議な世界観を楽しんでもらえるでしょうし、知っている方は彼の作品との共通点を見出してもらえるかと思います。さらに踏み込んで、どのように撮影したのかといった技法に興味を持ってもらうと、より楽しめるかと思います。

―今後の展望について

フィルムで多重露光の撮影を基本にして、今後も活動を展開していきたいと思っています。多重露光では、重ねるものを変えることによって全く異なる表現が可能になります。そうした無限の表現方法が考えられるなかで、数年に一度、新しい試みに挑戦するアイデアを決めておりまして、新たな作品制作に取り組んでおります。
 今行っている新しい取り組みの作品の一例として、下に示す写真のような、あるモノに別のモノを投影するというものがあります。ビンに空を投影する事で、幻想的な作品をアナログ手法で表現しております。明るい色が前出して暗い色が後退するという多重露光の性質を生かして、黒い液体を瓶の中に詰め白い背景で撮影を行った後に、全面で青空の撮影を行うことで、白いレイヤー、青いレイヤーの順に区別された表現ができます。

 

ゴトウヨシタカ 写真展「Mission : Nolan」
会期:2021/3/9(火)-3/21(日) 11:00-18:00
会場:京都写真美術館 ギャラリー・ジャパネスク 2F
WEB写真展
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