鈴木健太郎 個展「かたちづくられたものの記憶」インタビュー

2022年4月8日

京都写真美術館ギャラリー・ジャパネスク2Fにて鈴木健太郎 個展「かたちづくられたものの記憶」を2022年3月29日(火)〜4月10日(日)まで開催しております。
作家の鈴木健太郎さんにインタビューしました!

──個展のテーマについてお聞かせください

学生時代、日本画を描いていくなかで自分の作品の共通点というか一貫性に気づきました。それは時間や記憶、人と人との繋がりといったものです。このような集積された思いのようなものを表現したいと思いました。

──千社札をモチーフにされた理由は?

千社札は生まれた地域や時代が異なる人々が貼っていったものです。そのお寺に参拝したという事実以外は関わりのない人たちですが、札を貼るときに、一番初めに貼った人以外はそこに貼られている札を意識して自分の札を貼っていくと思うんです。それは、関わりのない人同士の思いが唯一繋がる瞬間だと思っています。これらが繰り返されることで霊場はかたちづくられます。このかたちづくられるものを表現したいと思いました。

それに千社札は貼った人の形代的な存在で、参拝の記念に貼るものですよね。現代の人と過去の人の思いが混在しているというところからも、人と人との繋がりが絶え間なく更新されているモチーフだと思います。

──千社札に興味を持ったきっかけは?

時の繋がりや、人と人の繋がりを表現したいと思って絵を描いていた時期があって、テーマ性を絞れるモチーフを探していたことがきっかけです。もともとお寺や神社の風景を描くことが多く、そのときに千社札をスケッチするようになって、雑多に貼ってある千社札が俗っぽくておもしろいとも思いました。

──過去の展示とは作風が異なりますね

過去の展示では、個々の札の圧に圧倒された感じをその場で表現したいと思い、大きなサイズで360°札に囲まれた空間を表現しました。それによって無数の札が意味するところを表したかったんです。しかし、その展示では札に描かれている名前に注目されることがあり、ひとつひとつの名前を追われてしまうことがありました。それはそれでおもしろいのですが、伝えたかったこととしては、群となっている札、札の集合体が意味するところなので、今回の展示ではそこを深めていきました。

──具体的にはどういった工夫をされましたか?

ひとつひとつの札に具体的な名前がはっきり描かれすぎていると、それにばかり意識がいって名前を読んでしまいます。そのため、あえて有機的な模様を札の中に混ぜ、意識の連続性というか人と人との関わりの連続性というか、そういう繋がりみたいなものを表現できればと思いました。個としての札が意味するところと群としての札が意味するところの違いを表現したかったです。

──制作方法について教えて下さい

千社札をスケッチあるいは写真で記録したあと、透明なOHPフィルムに絵具で札を描き起こします。それをネガフィルムとして使って、作品となる紙に感光させます。そのあと、紙に塗っていた薬品を洗い流し、乾燥させます。この工程を繰り返すと多重露光の写真と似たようなイメージが出来上がります。

──サイアノタイプを選んだ理由は何ですか?

作品のテーマに適した技法だったからです。時間が経過していくなかでも人々は繋がっている、と思える工程を制作の中に取り入れたいと思って。感光を重ねていけばそれらが全て重なった状態で紙に映し出されるというところからも、見ている人に作品のテーマが伝わりやすいと思いました。

──最後にメッセージをお願いします

サイアノタイプは単色での表現になりますが、そういうことをずっとしていると些細なものの変化、例えば、淡いグラデーションの変化に気づきやすくなります。太陽の光が斜めから差すと温かい雰囲気になったりします。それは単色ならではで、単色だから赤っぽい白、緑っぽい白、明るい白、暗い白などに変化する余地があります。単色で制作していなかったら和紙の質感にも気づけなかったと思います。普段何気なく接している日常の中にも一回ちょっと足を止めて見てみると、案外そこにはおもしろい世界が広がっていることもあると思います。

■鈴木 健太郎(Kentaro Suzuki)
1996年 京都市生まれ
2015年 京都市立銅駝美術工芸高等学校 美術工芸科 卒業
2017年「積層」(ギャラリー北野/京都)
2018年 第2回新日春展(入選)(東京都美術館/東京・京都市美術館 別館/京都)
2019年 京都精華大学 芸術学部日本画コース 卒業
             第5回石本正日本画大賞展(入選)(浜田市立石正美術館/島根)
2020年 鈴木健太郎 個展 TRACE(maronie/京都)
2021年 千客万来-人と魚、道と繋がりと(DELTA/京都)
             京都精華大学大学院芸術研究科博士前期課程 修了
             鈴木健太郎 個展 FIGURE AND GROUND(maronie/京都)

鈴木健太郎 個展「かたちづくられたものの記憶」
会期:2022/3/29(火)〜4/10(日)
11:00〜18:00(最終日は17:00まで)
会場:京都写真美術館 ギャラリー・ジャパネスク 2F