上野 昌子 写真展「CAT THEATER Vol.19」

レポート / 2019年1月18日

~土とネコをテーマに自然の恵みを表現したモノクロ銀塩プリント~

会場にて上野さん。
ネコという被写体に、四元素などのテーマを設けることで、「制約が加わったのに、逆に自由に発想できるようになりました。表現の幅が広がりました。これからも見たことのないものを形にしたいと思います」とのこと。

会場に展示されているのは、19点のモノクロ銀塩プリントです。写真家の上野昌子さんによるネコを被写体にした写真展は19回目。毎年この時期に行われるとあって、年始の挨拶を兼ねて多くの常連ファンが来場します。

自宅の一角に設けた写場に、撮影イメージに合わせて準備・制作した小道具をセットし、二代目の愛猫・ペペオ(メス)を呼び込むのだそうです。予想とは異なる動きにセットを組み替えながら、撮影していくとのこと。写真右がDMにも使われている作品。大地の恵みをイメージしたたくさんの果実とネコ。この時はペペオが台の下にしか行かなかったため、台を上げてレイアウトを少し変えて撮影したのだと、撮影秘話を語ってくれました。

学生時代にワークショップでモノクロフィルムの暗室作業を学んだことがきっかけで、モノクロフィルムの魅力にはまったという上野さん。当初は都会の片隅にいるネコを撮影していましたが、街の環境変化に伴い次第に室内の撮影へシフトしていったそう。

ここ数年は愛猫を被写体に、火・水・空気・土からなる「四元素」をテーマにした四部作を発表。今回の展示は「土」をテーマにした完結編です。

全19点のうち、土そのものを写したのは2点のみ。あとは土から連想したイメージが広がります。

土といっても単なる「土」を撮らないのが上野さん流。「土」から連想する「大地」「育まれるもの」「大地の恵み」といった広義での表現を模索し、作品のテーマをよりわかりやすく伝えるためのコーディネーター役として猫が位置付けられています。

地面に落ちたドングリが芽吹き、育っていくイメージ。じっと見つめるネコの表情がなんとも情感があり、なかなかに優秀なモデルです。

「『CAT THEATER』という作り物の世界に、自分のイメージする豊かな自然の断片を描き出すことに興味があります。土をテーマにしていますが、土そのものを撮るのではなく、土という世界から広がるものを表現しています。モノクロフィルムの表現に合わせて小道具を作るなど枠内にイメージを組み立てていくのはとても楽しく、一方でネコという思い通りにならない被写体が加わることで思いがけない表現が生まれる面白さがあります。写真の枠外へ広がりを感じる、見たことのないものを形にしていきたいです」

会場の様子。ちなみに、モノクロフィルムでの作品撮影はあっても、スナップで愛猫を撮影したことがないそうです。

左の作品は鏡に映ったネコ。深い森の中で自然をじっと見つめる様子に、上野さん自身の自然へのリスペクトを感じます。

現像からプリントまですべて自宅で手作業で行っているという上野さん。モノクロ銀塩プリントの深い階調に興味のある方、ネコ好きな方、四元素というキーワードに心惹かれた方は、ぜひ作品を見に、会場へ足をお運びください。

イメージ通りの質感や立体感を表現するため、感度400のモノクロフィルムを増感しているとのこと。それにより、部分的にトーンを調整でき、版画や木炭ドローイングのような質感を表現しているそうです。

【上野 昌子 写真展「CAT THEATER Vol.19」】
会期:2019年1月15日(火)~2月3日(日)
11:30~18:00(日曜日は17:00まで)
会場:GALLERY Jy(月曜日休廊)
http://www2.odn.ne.jp/gallery-jy/link.html