【ギャラリー探訪 第1回】 作家の新作を最も早く見ることができるアーティスト・ラン・スペース!

その他 / 2017年7月20日

「ギャラリー探訪」第1回は、東京・四谷にある自主運営ギャラリー「TOTEM POLE Photo Gallery」をご紹介します。設立者の有元伸也さんにお話を伺いました。

《有元伸也さんインタビュー》

自分の作品を見せる人がいない不安から
自主運営ギャラリーをスタート

――自主運営ギャラリーについて教えてください。

 自主運営ギャラリーとは、アーティスト(作家)が自分の作品を展示・発表する目的で運営しているスペースです。そのため、アーティスト・ラン・スペースという表現の方が合っているかもしれません。
 かつて1900年代、写真家のアルフレッド・スティーグリッツが開いた「291ギャラリー」にさかのぼります。日本では1970年代に、東松照明さんらによるワークショップ写真学校の卒業生たちが自作を展示するために立ち上げた「CAMP」や「PUT」などがあります。そこから、新宿区を中心に「photographers’ gallery」「Place M」「蒼穹舎」「Niepce」など、様々な写真家による自主運営ギャラリーが作られてきました。

――「TOTEM POLE Photo Gallery」を設立した背景や目的について教えてください。

 「TOTEM POLE Photo Gallery」は2008年に元田敬三さんと僕の二人でスタートしました。僕が自主運営ギャラリーを始めた一番の理由は、不特定多数に自分の作品を見せる場をつくりたかったから。ビジュアルアーツ専門学校 大阪を卒業した後、自分の作品を見せる人がいないことに不安を感じたんですね。人に見てもらうことはプレッシャーである一方で、作家にとって励みにもなることに気付きました。始めた頃は二人で交互に展示するため、作品づくりに追われていました(笑)。
 ストリートフォトを撮る者にとって、撮影から展示・発表までのスピード感はとても重要です。なぜなら街のリアルタイムを見せたいから。展示の日程に合わせて作品づくりのできる自主運営ギャラリーは、タイムラグなしで新作を発表できるという点で、他のギャラリーとは違う役割があると思います。

「ariphoto」のZINEを手に、作品づくりについて熱く語る有元伸也さん

誰もが気楽に作品を楽しめ
作家自身が成長できる場所

――「TOTEM POLE Photo Gallery」の特徴は何でしょうか。

ギャラリーの一画にはトーテムポールの置物が。知り合いの方がつくってくれたそう

ギャラリーを作るにあたり、僕はオープンなスペースにしたかったんです。そこで、グラウンドフロア(1階)であることにこだわりました。誰もが気楽に来廊できるよう、バリアフリーになっています。また、外からギャラリー内の様子が分かるように、路面に接している壁一面を透明のアクリル扉にし、フロントスペースを設けています。さらにギャラリー内では、作品集「ZINE(ジン)」や写真集を販売するなど、実験的な取り組みもしています。
 現在「TOTEM POLE Photo Gallery」は、若手作家を含めて12名の運営メンバーがいます。一人あたり年2~3回を目安に持ち回りで撮りおろしの新作展示をします。メンバーの裁量で知り合いの写真家が展示することや、貸しギャラリーとして持ち込みにも対応しています。

――ギャラリーで作品を展示する魅力は何だとお考えですか。

 潜在的に自分の作品を見てもらうために、展示、写真集、Webなど様々なメディアがあります。その中で僕が意識しているのは、新作はオリジナルプリントにして展示することです。「TOTEM POLE Photo Gallery」に行けば、有元伸也の新作が見れるわけですね。現在展示している「ariphoto vol.29」は、直近の1カ月で撮影した作品です。中には先週撮ったばかりの未編集のものもあります。評価の定まっていない習作に近い作品を展示するわけですから、ある意味とてもスリリングな挑戦です。しかし展示することにより、来廊された方とディスカッションでき、そこから次の作品づくりのヒントを得ることができます。展示期間中は在廊しているため、自分の作品と対峙する濃密な時間を過ごす中で見えてくるものがあります。それを繰り返すことで、作品と共に作家も成長していく。そうした魅力は他のメンバーも感じていると思います。
 また「量は質を生む」という森山大道さんの言葉にあるように、無理矢理にでも人に見てもらう作品をつくって展示の形で発表することは大切だと考えています。展示を通して蓄積したものの中から厳選して「ZINE」にまとめたり、写真集として発表したり、それをWebで販売するなど、いろんな広がりが生まれるからです。

「新規の運営メンバーを面接する際は、ひたすら落とします。定期的に撮りおろしを発表するには相当のやる気と根性がいりますからね」と話す有元さん。写真家の道は一つではないことに気付いてもらいたいと、その人や作品の方向性にあった道をアドバイスするのだと言います

ほとんどの人が見逃しているものを伝えることが写真家の役割

――現在、開催されている有元伸也 写真展「ariphoto vol.29」について、どのような思いで作品づくりをされているのか教えてください。

 「ariphoto」は2006年から始めたシリーズです。常に街が変化しているように、自分も変化している。その変化を見せたいと考えています。新宿のストリートフォトを中心に、過去には昆虫やチベットのスナップショットなどのシリーズを展開してきました。共通しているのは「都市の路上を撮る」ということ。皆さんが普段見ている街が、写真家の目にどう見えているかを伝えたいという思いがあります。
 特に新宿は、ごちゃごちゃはしていますが、洗練された街です。また、僕も含めて寄せ集めの街。例えば海の中にいろいろな魚がいることが多様性で生態系として豊かなことであるのと同様に、多様な人がいる新宿は生態系が豊かだと僕は考えています。常にいろんな人が流れ着いてくるから、撮っていて面白い。ぜひ、僕のバックボーンになる欠片を見てもらえればと思います。

ギャラリーの床下には大きな収納スペースが。整理しきれないほどたくさんのフレームがあるのだとか

気軽に来廊して
気軽に質問してほしい

――最後に、来廊される方へのメッセージをお願いします。

 気楽な気持ちで来てください! 自主運営ギャラリーは雑居ビルの1室などにある場合が多く、敷居が高いと感じるかもしれません。しかし、作家は多くの方に作品を見てもらいたいと考えており、来廊された方が質問してくださることが何より嬉しいのです。ぜひ作家とのコミュニケーションを通じて、写真を観る面白さにハマっていただければ幸いです。僕たち作家も、皆さんがギャラリーへ足を運ぶことに価値を感じられるような面白い作品づくりに、これからも取り組んでいきたいと思います。

ギャラリー名の由来となったトーテムポール(左端)のある公園から見た風景。右奥に見えるのが「TOTEM POLE Photo Gallery」

取材では、上記以外にも、作家としてのこだわりや作品づくりへの思い、若手作家の育成に対する情熱など、たくさんのお話をしてくださいました。有元さんをはじめ、運営メンバーの皆さんの作品が気になる方は、定期的にギャラリーへ足を運び、作家の皆さんにいろんな質問をしてみてください。
(記:TOKUTSU)

【TOTEM POLE Photo Gallery】
住所:東京都新宿区四谷四丁目22 第二富士川ビル1F
時間:12:00~19:00(月曜休廊)入場無料
アクセス:曙橋駅A1出口より靖国通り沿いを富久町方面(防衛省と逆方面)へ徒歩約10分、陸橋のある信号を左折、トーテムポールの建つ公園が目印
TPPGオフィシャルサイト
http://tppg.jp/

【有元伸也 写真展「ariphoto vol.29」】
2017年7月11日(火)~7月23日(日)
12:00~19:00