川島 小鳥 写真展「つきのひかり あいのきざし」~尾野真千子と川島小鳥~

レポート / 2018年8月9日

女優の心を溶かす写真家の魔法

写真家・川島小鳥さんと女優・尾野真千子さんが二人だけで台湾と奈良を巡り、本展のために撮り下ろした写真展。フィルムカメラで撮影したカラー作品が印象的な川島さんが、本展ではデジタルカメラで撮影したモノクロ作品を中心に構成。台湾から奈良へ旅をする中で変化する二人の距離は、作品たちによって一つの物語を紡ぎ出す。

川島小鳥さんの作品でよく登場する舞台の台湾で、尾野真千子さんは女優・尾野真千子としての姿で観る人を魅了する。写真を作品へと昇華させるために、互いの感性によって探り合う二人の関係性は、写真家としての、または女優としてのプロフェッショナルを垣間見せながら、まるで新婚夫婦の旅行記のような初々しさをも感じさせるのは川島さんの魔法なのだろうか。
台湾からスタートした旅が尾野さんの故郷である奈良へ進んでいく中、被写体は女優・尾野真千子ではなくなった。無邪気で少女のような笑顔、泣いているのかと思わせる切なげな表情、それは一人の女性としての尾野真千子さんであった。写真家と被写体の関係ではなく、家族の日常を見ているかのような錯覚を引き起こす。

川島さんはカメラによって現実と幻の間を切り取り、中和的な世界を作り出す写真家である。現実に存在した瞬間であるものの、何故か違和感を感じさせ、人間の日常であるのに、非日常性を醸し出す。言わば一種の夢、またはファンタジーを体現している。
しかし、本展では川島さんの作品に変化を感じた。日常と非日常の中和点を追い求めるのではなく、目の前の現実、尾野真千子さん自身をあるがまま撮影した印象を受ける。
リアルを感じさせる作品と、モノクロを中心とした展示。この二点の変化において、川島小鳥さんの新しい世界観へのさらなる進化を期待させる。

【川島 小鳥 写真展「つきのひかり あいのきざし」~尾野真千子と川島小鳥~】
会期:2018年6月30日(土)~8月26日(日)
時間:9:30~17:00(入場は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日
会場:入江泰吉記念奈良市写真美術館
料金:一般 500円、高校・大学生 200円、小・中学生 100円、団体(20名以上)2割引 *毎週土曜は小・中学生無料
URL:http://irietaikichi.jp/news/exhibition/190
[同時開催]
入江泰吉「奈良を愛した文士と高畑界隈」展
会期:6月30日(土)~10月21日(日)