森 康志 写真展「ハットリくん」

レポート / 2018年10月22日

~疎開してきた愛猫の本能を追ったドキュメンタリー~

ギャラリー前の公園から見た外観。天気の良い日は、ウッドデッキのテラスに座ってアートについて語り合うのも良さそうです。

吉祥寺は、さまざまなアートスポットが集まる「アートの街」として近年注目されているエリアです。吉祥寺の名が入った「キチジョウジギャラリー」は、井の頭公園駅より徒歩1分にあるレンタルギャラリー。白壁に木材を使った温かみのある什器やウッドデッキのテラスなど、オーナーのこだわりが詰まった居心地の良いスペースでは、写真やイラストなどさまざまな展示が行われています。

今回の写真展の主役はシャム系猫の「ハットリくん」です。その名が示すように身体能力に優れ、家に来た当初は荒々しい様子だったと、飼い主で写真家の森康志さんは当時を振り返ります。
ハットリくんは、福島から疎開してきた猫です。3.11後に福島へボランティアに行った森さんは、NPOの方と知り合い子猫を引き取ることに。どの子猫もかわいいなか、白い布に隠れるようにくるまっていた「ハットリくん」に、自分と通じるシンパシーを抱いたそう。それから7年と少し。当初は猫の写真にそれほど興味がなかった森さんは、次第にハットリくんの持つ孤独や愛しさに惹きつけられていったといいます。

「震災後の土地を写した写真は数多くありますが、避難や移転をした方々の生活や人生にアプローチしているものはありません。そこで、ハットリくんという疎開してきた愛猫をカメラで追ってみることにしました」

写真右から2つめに展示されているのは、雪を見るハットリくんの様子。森さんの家に来て数年の頃のものだそうで、故郷・福島の雪を思い出しているのでしょうか。また、写真左手前のハットリくんは森さんの足に戯れつく様子。森さんの言う「飼いならされた中で時折見せる野生の本能」でしょうか。

森さんが撮影していて気づいたのは、猫は自分を投影できる魅力的な被写体だということです。ある日写した写真には、自分とそっくりな顔をしたハットリくんがいたそう。展示されている13点の作品に写るのは、かわいい猫の姿ではなく、ハットリくんが森さんにだけ見せる表情、森さんだけが立ち入れる距離感や角度など。
動き回る猫をフィルムカメラで撮影しているため、追いきれずに多くがブレているといいます。写真展のポスターやDMに使われている作品は、7年撮り続けてほぼ唯一の正面からのもの。故郷を離れて慣れない場所で気を張りながら暮らすハットリくんが、次第に森さんに心を許してきた証なのかもしれません。

室内奥から入口を見た風景。「鉛から金をつくる錬金術のように、人が想像したことも見たこともない、自分の中の系統を表現し提示していきたいです」と森さん。コンセプチュアルな作品づくりをしていきたいと展望を語ってくれました。

年を経るごとに愛しさが増してきたという森さん。7歳になり少し落ち着いた今でも、ハットリくんが森さんの前でだけ見せる野生の本能を追い続けたいと話してくれました。
吉祥寺では現在「吉祥寺ねこ祭り」なるイベントで盛り上がっています。猫好きもそうでない方も、ぜひ会場へ足をお運びください。会場では、森さんの写真集『ハットリくん』も展示販売しています。

森さんの写真集『ハットリくん』。
右が特装版、左が通常版。

【森 康志 写真展「ハットリくん」】
会期:2018年10月17日(水)~10月29日(月)
12:00~19:00(最終日は17:00まで)
会場:キチジョウジギャラリー(火曜定休)
http://kichijojigallery.com/?p=6272

森さんのWebサイト
http://www.yasushimori.com/