菅原 一剛 写真展「In Paris」

レポート / 2019年5月16日

デジタルと銀塩の融合で表現されたパリの美しい光と陰

今回の写真展はリコーの新製品「RICOH GR III」のカタログ制作のために撮り下ろしたフランスの作品による特別企画展。菅原さんは修行時代に、弟子入りしていた早崎治さんの元を飛び出して、一人でパリに渡っています。当時は「写真家でも何者でなく、自分がいなくなっても世界は何も変わらないのではないか、そんな気持ちでうろうろ彷徨いながら写真を撮っていた」という菅原さん。記憶に残っている場所をもう一度歩いてみようと思い撮影場所をパリに決めたそうです。

撮影したのは、パリの街並みや「パリで好きな場所は?」と聞かれていつも答えているという、ルーヴル美術館のギリシャ彫刻のコーナー。自然光が差し込み、権威の象徴ではなく、自由に表現されたギリシャ時代の彫刻が並ぶ一角は、菅原さんにとって心地よい場所だそう。また、パリ滞在時にシルヴィー・ギエムの公演を観て好きになったというバレエも被写体に。そのほか、ジョセフ・ニセフォール・ニエプスのアトリエ、ジヴェルニーにあるモネの蓮池など、美しい光と陰を捉えています。

「今回パリに来て、日本人としてパリを見ることができた気がします。当時アジア人は日本人も中国人も韓国人もモンゴル人も一緒くた。僕は何人でもなかった。バレリーナのシルヴィー・ギエムを好きなったのも、当時はなぜなのか分からなかったけど、大人になるにつれて彼女が身体で表現する間や光と陰、そこに日本的なものを感じていたのだとわかりました」

アーティストとして一番大事なのは、アイデンティティーともおっしゃっていた菅原さん。写真から、菅原さんが写真家としての大きな一歩を歩み始めた、原点のようなものが伝わります。

また、今回の展覧会でのポイントが一点を除き、全てモノクロ写真だということ。実は、本来はカラー写真で構成する予定だったそうですが、菅原さんの意向で直前に変更したのだそうです。

「カラー写真と比べていただければわかると思いますが、モノクロのほうが、奥行きがあり物質としてはるかに写真的です。今回のプリントは、新しいデジタル用バライタ印画紙を用いて、従来の銀塩写真のように暗室処理し、デジタルと銀塩の融合による重厚な仕上がりになっています」

日本でほぼ初めてという技法で制作されたプリントは、パリの景色と相まっていつまでも眺めていたくなるような不思議な心地よさを感じます。写真展は5月20日(月)までとなっているので、ぜひ足を運んでみてはいかがでしょうか?

【菅原 一剛 写真展「In Paris」】
会期:2019年5月8日(水)~5月20日(月)
10:30~18:30(最終日16:00まで)
会場:リコーイメージングスクエア大阪(火曜定休)
http://www.ricoh-imaging.co.jp/japan/community/squareosaka/
菅原一剛さんのWebサイト
http://ichigosugawara.com/