erico 写真展「うちへかえる」

レポート / 2020年8月27日

~自身を構成する根源的な感情が見せる、世界の具現化~

関西を拠点に「日常の中に潜む非日常」をテーマとして、スナップや風景写真の作品制作に取り組む、写真家のericoさん。テーブルフォトやスナップ撮影などのワークショップも多数開催しています。

本展では、水晶玉を取り付けた万華鏡を自作し、それをカメラレンズの先端に当てて撮影した作品が展示されています。被写体は日常の中に当たり前に存在しているものばかりですが、ericoさんの視点を通すことで、繊細で美しい特別な光景へと変貌を遂げ、それらは見る者の根源的な感情を揺さぶります。

――万華鏡を自作し、それをカメラレンズの先端に装着して撮影するスタイルを確立するに至った経緯を教えてください。

数年前に万華鏡を子どもと工作で作る機会があり、完成したものを覗いた時、ミラーに映った画像が反射して広がりました。その美しい模様は二度と見ることはできませんし、人生も一瞬一瞬の積み重なったものの連続で、同じ瞬間は二度と訪れないところが同じだと感じました。

調べていくうちに万華鏡にはたくさんの種類があることや、その先端にスパンコールやビーズなどの飾りを入れずに、ガラス玉だけを装着して周囲の光景を写し込む、テレイドスコープというものがあるということを知りました。一般的なテレイドスコープは口径も小さくカメラでの撮影には不向きですので、カメラのレンズの口径に合わせた大きなサイズのミラーと水晶玉を組み合わせて自作しました。ミラーの組み方などは東京の万華鏡作家の元へと通い、勉強させてもらいました。

――そもそも万華鏡を通して、撮影されるようになったきっかけとは?

万華鏡には、見る人それぞれの中に眠る記憶を呼び覚まし、自身の内面を投影する力があるのではないかという仮定に基づき、作品制作に取り組みました。というのも、見るという行為は、その人の経験や記憶に基づくフィルターを通すということだと思うのです。ですが、そのフィルターを通して見えたものを作品に反映させることは難しい。そんな時、万華鏡を通して写し出された世界を見て、自分の見えている光景に近いと気が付きました。それから約3年間、万華鏡を装着して撮影を続けています。

プリントはピクトランの局紙をご使用。「繊細な色合いと表面のキラキラした面質が万華鏡にぴったりだと感じたので使用しました」とのこと。

――そういったご自身の内面的な部分を作品として昇華する際に、意識されていることや、苦悩などがあれば教えてください。

日々生活の中で、喜怒哀楽の感情をしっかり感じきることを意識しています。また、感情が複雑な場合には、感じたことを紙に書いて整理することもあります。それが自分の中に蓄積され、作品制作の際、アウトプットにつながっています。また、撮影時は自分の内側に入り込むために、よく音楽を聴きながら撮影しています。苦悩といえば、自分の内側になかなか入り込めない時や、入ったあとなかなか出てこれない時があることでしょうか(笑)

――万華鏡を通して写し出される世界はとても幻想的です!ただ、世界には美しい面が多くある反面、つい目を背けたくなるような暗い面もあると思います。本展では、あえて美しい面だけを切り取られている意図が気になります。

世界には表と裏、陰と陽、ポジティブとネガティブなど、対になっているものが常に存在していると思います。人間は元来、脳の構造がネガティブに考えるようにできていると聞いたことがあります。今、世界的に不安の多い世の中で、暗い話題ばかりがフォーカスされがちですが、反対に家族と過ごす時間が増えたりなど、ポジティブに捉えられる面も多くあると思います。暗い面にフォーカスするとそれしか見えなくなってしまうので、あえて美しいものに焦点を合わせることで、どちらも感じることができると考えて撮影しています。

ステートメント。

――「流されながらなんとなく生きてきた今までの自分から、やりたいことをやり貪欲に生きようとする本来の自分へ「かえりたい」という思い(一部抜粋)」本展のポイントの一つだと思われるこういった気付きは、作品制作においてどのような影響をもたらしたのでしょうか?

以前の自分は、受け身で生きる姿勢が作品制作においても表れていました。出来ない理由を探し、出来ることだけに取り組んでいましたが、この気付きにより、「どうやったら出来るか」を考えて作品制作に取り組むようになりました。例えば、万華鏡を使った作品を制作したところで世の中に受け入れられるのだろうかと、以前の自分なら不安に思い諦めてしまったかもしれません。ですが、この気付きを得たことで、これが自分なのだからしょうがないと開き直って作品制作に取り組むことができています。

――展示構成も印象的ですね。

会場全体を教会に見立て、祭壇のようなイメージで突き当たり奥に大きな作品を配置し、会場入口から奥に向かっていく両側の壁面には蝋燭をイメージした小さめの作品を並べました。また、入口近くに10センチ角のアクリルに万華鏡で覗いた光景を閉じ込めた作品があり、「手の中の宇宙」をイメージしています。

アクリルキューブ作品の数々も美しい煌めきを放っています!

――今後の作品制作への展望を教えてください。

万華鏡を使った作品を今後も制作すると同時に、新たな表現にも取り組んでいきたいと思っています。具体的にはこれからですが、蛍石など鉱物の収集も行っているので、それらを作品制作に繋げられたらと思っています。

――最後に読者へのメッセージをお願いします!

日常は非日常の積み重なったものだと考えて普段から撮影を行っています。同じ場所でも時間帯や季節によってまったく見え方が違います。そんな一瞬一瞬を切り取った作品を、これからもみなさまに見ていただけましたらと思います。

会場では、写真集もお買い求めいただけます。併せてぜひご覧ください!

【erico写真展 「うちへかえる」】
会場:Roonee 247 Fine Arts
会期:2020年8月18日(火) 〜 2020年8月30日(日)
12:00〜19:00(最終日は16:00まで)
公式ホームページ http://www.roonee.jp/exhibition/room1/20200720103120

ericoさん 公式ホームページ 
https://erimuku.com/