田近 夏子 個展「二度目の朝に」

レポート / 2020年10月3日

~大切な存在の死が、日常の中で記憶へ変わるということ~

会場にて、田近さん。

田近さんの個展「二度目の朝に」が、2020年10月6日(火)まで東京都 高田馬場にあるギャラリー Alt_Medium で開催されています。1996年岐阜県生まれの新進作家である田近さんは、東京工芸大学芸術学部写真学科在籍中に、塩竈フォトフェスティバル2018において「二度目の朝に」で写真賞大賞を受賞され、その副賞として制作された写真集の発売を記念し、この度初の個展を開催されました。

本作は、ある夏のはじめに愛犬が亡くなったことをきっかけに制作されました。愛犬が亡くなったのは、奇しくも田近さんが3歳の頃に祖父を亡くした場所と同じ、お風呂場。それは、死にまつわる幼少期の曖昧な記憶と今回の出来事とが、お風呂場を介して交わった瞬間でもありました。

――まず、田近さんが写真をはじめられたきっかけについて教えてください。

高校生の時に写真部に所属し、その活動の一環として『きらめき写真館』という冊子の制作に取り組んだことがきっかけです。その冊子は学校行事の写真を収録した卒業アルバムのようなものです。活動の中で、同級生や先輩後輩など、人を撮ることが純粋に楽しかった!なので、大学は写真を専門的に学べる学校を選びました。

写真について学ぶ中で、撮影対象が人から自身を取り巻く日常へと変わりました。なかでも変化を視覚的にとらえやすく、ずっと見ていても飽きないものに惹かれるようになりました。たとえば、植物がそうです。

――本展でも、植物の写真がいくつかセレクトされていますね。その意識は本作にも繋がっているのでしょうか?

自身の日常が被写体であるということは変わっていません。本展ではそれに加えて、愛犬の死という出来事が関係しています。本作の撮影時は、悲しみでいっぱいでした。ですがその一方で、それ以前となんら変わりのない日常を淡々と生きる自分もいました。撮影の中で、自身の意識とは別のところで日常が流れていくような、違和感を抱いていたのです。

――その違和感を写真で表現しようと思われたのは何故ですか?

意識的に表現したというよりは、悲しみが頭の片隅を常に占めていたため、その感情を切り離して撮影することができなかったのだと思います。

当時のご自身の気持ちと重なる1枚とのこと。「出来上がった写真を目にした時、吸い込まれるような印象を受けました。それは当時の自身の感覚と近いようにも感じました」と、田近さん。

――本展には、川、海、窓の水滴など直接的に水をとらえたもの、お風呂場、シーツの皺など間接的に水を連想させるものといった、水にまつわるモチーフが多く見受けられますね。

祖父と愛犬が亡くなった場所であるお風呂場を撮影した時、じっとりと肌にまとわりつくような湿度を含んだ空気に、生や死をとても感じました。その感覚がきっかけで、水気を感じるものを意識的に撮影するようになりました。

――ご自身の体験と写真を撮るという行為とが、密接な関係にあるのですね。

たしかに自身と写真との距離感は近い方だと思います。だからこそ、同じものを撮影したとしても、当時のような写真はもう撮れません。これまで生きてきた時を一本の線に見立てるとすると、私は日常に流され、その線上を前へ前へと進んでいると言えます。なので、身近な存在の死という出来事も、月日の経過とともに自然と遠のいていきます。ですが、その出来事は決して消え失せたわけではなく、その線上にいつまでも留まっているので、何かのきっかけで記憶という形で蘇るのです。本作には、そういった流れる感覚を写真で表現したいという思いも込められています。

本展からは、身近な存在の死の悲しみが日常の中で消化される過程を見出すことができます。そして、消化された悲しみは、ふとした瞬間にまた自身の日常と重なり、当時の悲しい痛みではなく優しい記憶として蘇るということも教えてくれます。本来、視覚的にとらえることができない感情の変遷に対して、写真でアプローチされた田近さんの作品。ぜひ会場でお楽しみください!

会場では、本展の作品が収録された写真をお買い求めいただけます。また、Alt_Mediumを共宰している写真家の篠田 優さんによる、本展のインタビューをまとめた冊子もお配りしているとのことです!ぜひ展示とあわせてご覧ください!

【田近 夏子 個展「二度目の朝に」】
会場:Alt_Medium
会期:2020年9月24日(木) 〜 2020年10月6日(火) (水曜休廊)
12:00〜20:00
https://altmedium.jp/