上原 ゼンジ写真展「まあるい宇宙」

レポート / 2021年4月20日

実験写真家として、発想力豊かな作品を数多くつくり出されている上原ゼンジさん。その上原さんの最新の写真展にお邪魔し、お話を伺ってきました。

自身が考案、開発、製品化されたレンズ「Soratama 72」を取り付けたカメラを持った上原さん。真ん中にある玉の部分は、クオリティの高い光学レンズとのこと。「最初筒状のお菓子の箱で作ると面白いですよ、と紹介しはじめたのですが(自分で工作する方法)、これだとカッコ悪いという声もあって、自分でZENJIXというブランドを立ち上げて製品化しちゃいました。こんなことをやるつもりはなかったのですが、つい思いつきまして…」。上原さんの後ろの作品は、「万華鏡カメラ」で撮られた作品。

左から4作品は築地市場のマンホールを撮ったもの。いい具合に腐食していて、まさにSF小説に出てくる惑星のよう。自然風景を撮られて惑星化したブルーやピンクの惑星と、マンホール惑星の配列は、宇宙のどこかの銀河に実際に存在していそう!

上原さん:こちら(上記の写真の惑星シリーズ)は、デジタル加工し制作しました。マンホールを普通に撮影し、それをPhotoshopで3D化。取り壊される前にと築地市場に撮りに行った時、なぜかマンホールが気になって。これを惑星みたいに表現したら面白いんじゃないかと思い、立体化しました。
ターレなどの重機に何度も踏みつぶされていて。本当だったらこんな状態になる前に取替えられていたはずが、たまたま取り残されていたのだと思います。

ー「3D化」について詳しくお聞きしてもよいでしょうか。

上原さん:Photoshopにある機能を使っています。元の写真サイズも大きくないとダメですし、疑似的なものではありますが、パソコン上で回転させたりもできます。惑星にするにはどういった素材が面白いか、切り取ったらどうなるかを最初から考えて撮影しています。今回は画像で出していますが、もしかしたら今後は3Dで出力できるようになるかもしれません。

ー何かを惑星に見立てるという発想が面白いですね。

上原さん:自分の本の『うずらの惑星―身近に見つけた小さな宇宙 カメラプラス』にもあるように、「うずらの卵を接写して反転すると惑星みたいに見える」ということを発見し、「身近なものから宇宙を発見すると」いうテーマをずっとやってきています。誰かが見つけた絶景を撮りに行くのではなく、自分のすぐ近くにある宇宙を探し出そうということです。

右側の壁に展示されているのは、線香花火を宙玉レンズで撮ったもの。「自分で火薬をのせ和紙を縒って線香花火も手作りしました」とのこと!

上原さん:万華鏡写真は筒状のお菓子の箱にミラーを組んで撮影したもの。万華鏡写真を撮ってみたいなと思ったのがきっかけですが、万華鏡ってのぞき穴が小さくてカメラで撮れないんですよね。だからレンズに合わせて自作をしました。万華鏡は筒の内側にある具材をのぞき穴から見るものですが、自作したことにより、万華鏡の外側にある被写体が撮影することができるようになりました。

ー瞬間ごとに変化する万華鏡の世界が、カメラでつくられるということですね。

上原さん:例えば、これ(上記画像の青い万華鏡写真)は、枯草を集めてきて撮ったものです。

ーガラスをエッチングしたものかと思いました。

上原さん:草も作品になってしまいました(笑)。何からでもできるのですが、被写体と離れると規則正しいパターンではなくなってきます。 被写体から離れると、遠くからも光が入ってきて、パターンがズレていきます。広角レンズを使うと画面内のパターンが増えるんですが、レンズ自体も万華鏡からはみ出さないサイズにしなければならなかったりと、色々と工夫が必要です。組み合わせたミラーの三角のサイズ、筒の長さもいろいろ試してみて、このサイズになっていますが、表現によっては新たなサイズのものを作り直します。

デジタルで作られた曼荼羅シリーズ

ー身近なものから作品を作るということは、いつ頃から考えておられたのでしょうか。

上原さん:いつだろう? 最初は赤瀬川原平さん、そして森山大道さんから学んだんですが、その頃から近所をぶらつきながら身近なものを撮る、というスタイルだったので、最初の頃からになりますね。

ー自分で編み出したものを公開してしまうのは、私だったら「惜しいな」と思ってしまいそうですが…。

上原さん:アイディアはオープンにした方が、そこから別の人がまた違うことをやってくれるようになったりして、広がりが出て面白いんです。例えば「宙玉」を公表したら、みんながいろいろなことをしはじめて、玉をいくつもつけたり、回転させたり。回転は自分も思いつかなかったので、自分を起点としながら派生していくものが楽しみでもあります。
先日アップされた『デジカメWatch』の記事にも書きましたが、最近は自分で絞りを自作しました。何のために作ったかというと、ボケでできる玉をキレイな円にしたくて。どうしたらいいかなあと、革に穴をあけるポンチで穴をあけてみたり。「宙玉」で撮る場合はある程度絞らないと玉のエッジがくっきりしないんですが、絞るとボケがカクカクしてしまうので、ワッシャーを使った自作絞りできれいな玉ボケになるように工作しました

ーこうして進化していっているのですね。

上原さん:「宙玉アワード」というものを毎年やっていますが、新しいことをしてくれる人がたくさん出てきてくれていますね。

ーこの4つの技法で作られたものが今回展示されているのですね。

上原さん:「宙玉」で撮ったもの、3D化したもの、実際の万華鏡を使って撮ったもの、Photoshopでパターン化して組み合わせたもの、4種類になります。以前はフィルムで撮っていましたが、ある時からデジタルカメラで撮るようになって、まわりから「魂を売った」なんて言われたり(笑)。でも「デジタルカメラでもアナログ的なことはできるよ」と示したいために、レンズを手作りしたり、手ブレ増幅装置を作ったりしてきました。ただ最近はPhotoshopによるイフェクトも積極的に使っているので、デジタル技法とアナログ技法では違いはあるのか?魂はあるのか、ないのか(笑)、といったあたりを見ていただければと思っています。

ー絵のようなものをはじめ、写真から作られたとは思えないような作品の数々。本当に興味深いです。ところで、今後こういうものを撮ってみたいなと、いうものはありますでしょうか。

上原さん: 常にたくさんのプロジェクトが同時進行中です。まだ公開していないものもあるし、今までやったことのバリエーションもあります。ただひとつひとつのプロジェクトをきちんと完成させていくということも重要なので、そこが現在の課題です。

ステートメント、プロフィール

被写体が何かを伺うだけでも目からウロコの連続。枯葉も衝撃でしたが、水耕栽培の人参の葉の部分やクラゲなどなど… 。アナログなのかデジタルなのか、何を撮られているのか、たくさんの不思議が解き明かされていく写真展での取材を通じて、「自分の頑なな視点も変えていかなきゃな」と思わせられました。今後の新しい実験写真も、アップデートされる作品たちも、とても楽しみです!

【上原 ゼンジ写真展「まあるい宇宙」】
会場:ギャラリーヨクト
会期:2021年3月31日(水)〜4月4日(日)
13:00~19:00
http://blog.livedoor.jp/galleryyocto/?p=2

上原さんのWebサイト
https://zenji.info/