竹沢 うるま 写真展「BOUNDARY|境界」

レポート / 2021年4月24日

会場にて、竹沢さん。展示期間中は終日在廊予定とのこと。 竹沢さんの後ろの作品は、大分県国東半島を撮られたもの。それらの風景は素朴な美しさがあり、アイスランドとは違った魅力があります。

旅する写真家として国内外で活躍されている竹沢うるまさんの4年半ぶりとなる新作の写真展にお邪魔してきました。


ー世界各地を歩かれた竹沢さんがここを撮りたいと思われたきっかけなど教えてください

タイトルの「Boundary」、これは「境界」という意味ですが、「境界」って一体何だろうと考えたとき『人間と大地との境界』これが僕の中での大きなテーマと感じました。人間も死ねばいずれは大地へ還っていき、長い目で見ると人間も大地の一部だと。これまでは人間側というアプローチを撮っていましたが、その逆の大地側からを表現できないかと思い、原始の姿をできるだけとどめている大地を求めて、アイスランドに行くようになりました。

(下記の大きく展示されている5枚の連作)こちらは前日まで真っ黒だった大地に雪が降り、翌朝は真っ白になるかと思ったら、夜の間に積もった雪が半分ほど溶け、雪の白と大地の黒という、一面モノトーンの世界が広がっていました。翌日も撮りたいと思っていたら、雪が解けまた黒い大地に戻ってしまい、この時間やタイミングといったもので白と黒が行き来する光景は、このラインを強調することで、『人間と大地との境界線』が表現ができるのではと感じました。

アイスランドの有名な観光地でもない名前もない大地や、山に一人入って行き、「いいな」と思った瞬間を撮られたとのこと。「展示は一連の流れで見てもらえればうれしいです。アイスランド、日本、そして最後にまたアイスランドに戻りますが、今日とてもいい感想をもらいました。最後の写真を見て『これはアイスランド?日本?』というもので、僕にとって境界線がなくなっているという、印象的で大切な問いだったと思います」。

ーこの大地の色合いが変わるように、人間の世界でも昨日まで正義だったものが翌日には悪というように、日々刻々と変わっていくことを感じさせられます。

そうなんです。私たちが暮らす中で境界線と思っているものは日々変わり、100年、1000年、1万年という時間軸で見ると、そこにある境界線の意味も場所も変わっていきます。長い視点でとらえると何もかもが無に還っていくのだと感じます。写真展はビジュアル重視の部分が大きいですが、写真集の方は人間の営みが大地に抱かれるという構成にしてます。(人間の営みである)モノクロページはアジア、南米、チベット文化圏、中東、日本を撮ったもので、すべて宗教が絡みます。ヒンズー、カトリック、土着信仰、ユダヤ、イスラム、仏教。2000年という人間の歴史の中で、ほどんどの争いは、宗教による考え方の違いといったものが根底にあるので、それを大地で挟み込むような構成でつくりました。

ー有史以来、自然物が信仰の原点だったのが、神的存在者たちによって信仰が変わっていったというのが大きいですね。

信じるべきものの始まりである大地という時間軸で見たとき、人の営みがつくった境界線というものは、ほぼ無意味なものになると思っていて、本当にそれは境界線なのだろうか、という問いかけをしています。
今回鳥の視点というものを大切にしていて、ちょこちょこ鳥が入っています。鳥から見れば大地も人間も同じようなもので、視点がどこにあるかということを鳥が表しています。それは時間軸や視点というもので、境界というものが曖昧なものであるということも表現しています。

ステートメント

ー確かに鳥にとっては形が違うだけで、そこに意味があるかということを考えると、意味はないものかもしれないですね。

そうです。鳥にとっては無意味なことで、意味をあたえているのは自分自身ですし、意味を変えるのも(境界線を)なくすのも自分でしかありません。
作品自体、具体的なものに落とし込みたくないと考えていて、抽象性を担保しつつ、かつビジュアルとしても成り立たせたいと考えています。その抽象性があることで、想像するという余地があり、それが写真を見る面白さだと感じています。僕がこうやってお話していることも、その通りに見る必要はなく、自由に感じてもらえればと思います。

ー普段私たちは自分という存在を大きく感じていますが、竹沢さんの作品を見ることで、自分自身が小さくて存在していないもののようにも感じます。

そうなんです。宇宙や大地という視点で見ると人間の「個」というものは、どんどんミニマムになっていきますが、無なのかというと違います。
(アイスランドの作品を示されて)これらを自分もいずれ大地に抱かれるのだ、いずれは無になっていくだなと思いながら撮っていましたが、雪が降りはじめ視界が悪くなり唐突に「こわいな」と感じました。この感覚は何だろう?「自分は生きたいんだ」と!ものすごく矛盾したことを言ってますが、自分は大地の一部であり長い時間軸では無になるとしながら、「生きたい」と思ったことが、そこに自分の「個」が存在していることを強く感じさせられました。だからこそ目の前の事柄にしっかりと向き合って、生きていきたいと思います。

会場に入ると布の仕切りがあり理由をお伺いすると、それは現実(歩道)と非現実(写真展)との境界でもあるとのこと。布を通して作品が透けて見えるのが神秘的です。


アイスランドの写真はカラーですが、引き算されたかのようなモノトーンの世界が広がり、それは生命体がもつシンプルな造形美が表されているよう。大地も空もそこに境目はあるようでもあり、ないようでもある。何を撮ったものなのか、これは何を意味しているのか、写真を見ると即時に考えること。それを開放して「ここはどこなんだろう?」というファーストインプレッションに心を傾けてみる。それは自分の中にもある、境界ををなくしていくことに他ならないかもしれない。ぜひご覧ください!

会場では 写真集『Boundary ー境界』及び、昨年末に発売された『ルンタ』が販売されています。 手に取ることもでき、来場された方はどの方も熱心に見られていました。会場に来られないという方には、サイン入りの 『Boundary | 境界』 がこちらで購入可能とのこと。

【竹沢 うるま 写真展「BOUNDARY|境界」】
会場:キヤノンギャラリー銀座(日・月・祝定休)
会期:2021年4月20日(火)~4月28日(水)
10:30〜18:30(最終日は15:00まで)

会場:キヤノンギャラリー大阪(日・月・祝定休)
会期:2021年6月8日(火)~6月19日(土)
10:00〜18:00(最終日は15:00まで)
https://canon.jp/personal/experience/gallery/archive/takezawa-boundary

竹沢さん WEBサイト
http://uruma-photo.com/
Facebook
https://www.facebook.com/uruma.takezawa

※2020年12月に行われた写真展「Remastering」も取材させていただき、こちらでご紹介しています。よろしければぜひ!