高崎勉写真展「いま君はどこにいるの」

レポート / 2021年5月25日

〜「今」と向き合うことで生まれた写真群 〜

作家の高崎さん

富山県高岡市の写真美術館 ミュゼふくおかカメラ館で高崎勉写真展「いま君はどこにいるの」を開催中の高崎さんにお話をうかがいました。

ーミュゼふくおかカメラ館での写真展開催は4年ぶりとのことですが、今回の展示のきっかけを教えてください。

やっぱり、コロナと切り離すことはできませんね。僕の仕事の中心はずっと広告写真なのですが、ここ数年は作家としての活動に力を入れてきました。ただ2020年を迎える時に「これから暫くは広告カメラマンとしての活動に絞る」と、宣言していました。なのにコロナのせいでクライアントと場を共にする撮影業務が激減したことと、やはり作家としてこの境遇に思うところあって、結果的にはどの時期よりも多く作品制作の集中した1年になりました。

ーコロナに撮らされた1年ということでしょうか。

「コロナ」に、というよりは「社会」に、という方が正しいかもしれません。僕は今まで鑑賞に向いた静かな作風の中にメッセージを潜ませてきました。ですが、ここまでメッセージを前面に出した作品を作ったのは、初めてのことかもしれません。

ー今回の展示では日常的なスナップ作品も展示されていますが、その理由を教えてください。

前の個展が2017年で、その翌年から僕が監修する写真教材のサポートサイトで会員制のブログを始めました。やはり写真愛好家向けのものですから写真はなんでもいいというわけにはいきません。そうして日常を意識して撮り続けていたのですが、それがまさに時代の変化を表現していたのです。そして自粛期間を迎えた時に僕の主催する写真教室「Abox Photo Academy」で「外出に制約ができても制作の手を止めてはいけない」として「Inside Journey」というOnLine講座を開講しました。その時に奇しくも僕が続けていたフォト日記がそのまま、時代を切り取った痕跡になると確信しました。

「いま君はどこにいるの」より

ーご家族の写真もありますが、プライベートを公開することでどんなことを伝えたかったのでしょうか。

広告だ、アートだと、プロカメラマンまたは写真講師として語ってきましたが、こんな時代だからこそ家族写真というのは大切だなと思いました。あとは誰でも自己表現できるのだということです。僕はブログというステージでこれらを提示してきましたが、今はSNSを使えば世界中の方々と結びつくことができます。写真じゃなくてもいいのです。絵画や俳句や歌でもいい。自分が表現したもので社会と交わるということで貴方の人生がずっと豊かなものになるんだと伝えたかったのです。写真だったらスマホでも撮れる時代です。ただ、鑑賞者の心を揺り動かす絵力のためには、最低限の技術習得は必要ですが。

ー普段は広告写真を撮られているとのことですが、今回、道端に落ちていた空き缶やタバコのパッケージを被写体にした作品もありました。
このような作品を作られたのはなぜですか?

クライアントの顔ともいえる商品が踏み潰されたものを撮ることで不愉快に思われる方もいらっしゃるかもしれません。ですが、これはパッケージを産み出したクライアント、クリエイターへのオマージュなのです。踏み潰されてもなお輝きを放っているブランドロゴ、計算された印刷の色彩。私たちの日常を取り巻いている美しいものたち。その感動と敬意は必ず伝わると確信しています。

「Sketch」より

ー今回ご自身では初めての動画作品も展示されているとのことですが、そのきっかけを教えてください。

これは1年前の緊急事態宣言下の帰宅中の出来事なのですが、僕に対する道ゆく人たちの目線が厳しい。なんで僕を睨みつけるんだろうって思っていたら、マスクをつけ忘れていたことに気が付きました。品薄でコンビニにも売ってないし。そして横断歩道の前で立ち尽くす僕と、通り過ぎる人々の姿を車のヘッドライトや信号の光が照らし出してビルの壁に照射したのです。まさに僕たちの心理的な距離感が投影されていました。ちょうど街の灯が消えていた時期だったのでビルの壁が映画館のスクリーンの役割を果たしました。それを動画で撮影して画像を切り出しました。

「anti-social distance」より

ー今後の活動についてお聞かせください。

他の写真家のプロデュースも数件抱えているので、自分のことは一旦休んで…、なんて思っていたのですが、次々に撮りたいテーマが現れる予感がしています。まだしばらく不安定な時代が続きそうですから。ただスピード感を持って制作~発表していかないと、あっという間に時代遅れになってしまう。そして時代の痕跡を残すだけではなく、時代を超えて普遍的に愛される作品を作り続けていきたいと思います。

【高崎勉写真展「いま君はどこにいるの」】
会期:2021年5月15日(土)~7月11日(日)
開館時間:9:00~17:00(入館は16:30まで)
会場:ミュゼふくおかカメラ館
〒939-0117 富山県高岡市福岡町福岡新559
入館料:一般500円 高校・大学生300円 中学生以下無料
https://www.camerakan.com