~この地球という、星の大地に生まれたことに感謝したくなる写真展~
東京・品川のキヤノンギャラリー3会場で同時開催されている写真展(キヤノンギャラリー S「Masai Mara」、キヤノンオープンギャラリー1「What a Wonderful World -この素晴らしき世界-」、同2「ねこがお」)について、写真家 岩合光昭さんにお話を伺ってきました。
ー「Masai Mara」展示会場中心に置かれたベンチから作品を見ると、マサイマラの一日が映像で映し出されていて、その一瞬一瞬が切り出されているような錯覚を覚えました。
(ビデオも)スチールもですが、速いシャッタースピードで切りながら、カメラを動かしています。動物の動きにリズムを合わせる、例えばライオンが走っているところもその動きにあわせてカメラを動かしています。映像の一瞬が切り出されていると感じていただけたのは、嬉しいですね。
ー自然光が入るギャラリーを、あえて暗くされている意図などお聞きしてもいいでしょうか。
アフリカを撮っているときはとても光が大切で、その光を再現したいという思いがあります。あえて光を遮断し、撮ったときの印象、自分の考え方みたいなものを、この(作品に当てられている)スポットライトで再現をしています。
ープリントは、今回Canon imagePROGRAFといういう大判プリンターでされたということですが。
評価を普段僕はしませんが、素晴らしい。いいと思います。
ー黒の締まりが良いなと感じました。
確かにそこが写真集づくりでも一番苦労するところですからね。
ー写真展での展示作品は、(販売されている)写真集に全て収録されているとのことですが。
でも実際には写真展を見ていただくのが一番だと思ってます。
絵画展での画集みたいなものかもしれませんね。自分の身近でメモリーを復活させる、記憶の再現といったものでしょうか。自分の頭の中でそれをするためには、写真集という存在は必要だと感じます。
ーCP+のオンラインプログラムでどういった機材を使用されたか拝見しました。撮ったあとに驚いたり、例えばカメラ機材の進化でこれは?!と思うことはあったりしますか?
とにかく再現性です。撮ったときのシャープさであったり、その動物の肌とか毛の質感だとか、あとから夜パソコンで見たときにすごいなって感じます。実際に見たその日の夜に見るから余計感じます。
ーその日現場にいたからこそですね。
その現場にいて、自分の目でも見ることができないところを写真で拡大して「あの時にこんな虫が飛んでいたんだ」とか。動きの一瞬一瞬を写真で捉えているわけですから、自分の見ていた動いている画を止めて見ていることになります。自分の頭の中で、アフリカのマサイマラという土地を、絵巻物のように見ているようなもの。それを日本の皆さまにも見ていただきたいという思いが強いです。
そして自分の捉え方や揺れ動く気持ち、そういったことを、先ほどおっしゃられたように、「流れを止めているかのように」見ていただくことは、自分のやりたかった事だと思います。
「撮影するときはリズム、テンポといったものが大切」
ー岩合さんといえば本当に今までたくさんの動画作品も撮られてきていますが。
1980年代からビデオを撮っていて、1990年2000年代とずっとNHKの番組でビデオを撮らせていただいていますが、2012年の「岩合光昭の世界ネコ歩き」をはじめたときの反響が思っていた以上に大きくて、NHK側も驚いていました。
振り返って、自分は自然とか野生動物をずっと撮ってきて、伝わっていなかったのだろうかと考えさせられた事でもあります。
今も自然や野生動物の素晴らしさをどうやって皆さまに伝えられるだろうかと、日々考えていますが、それを端的に表してくれるのはネコなんだと。
ー存在がということでしょうか。
存在そのものが、野性なんですよね。だからそう、ネコの体の中の秘めたる野性を引き出すことによって、僕がやりたかったことを皆さまに見ていただけるんじゃないかと感じています。
ー野生動物を知るきっかけになればということでしょうか。
そうですね、その役割は大きいと思います。
ー今回の展示の3作品をすべて見させていただいて、私が一番感動したのはこの「Masai Mara」ですが、岩合さんの中に見ていただきたい順番があったりしますでしょうか。
一番見てもらいたいものは?と聞かれたらすべてになってしまうのですが、「Masai Mara」から見ていただけたら、写真の世界観に入りやすいかなと。3作品の全てに僕の50何年かが含まれてるわけです。その僕の中からいろいろなものがドーンと突き出てきたものを見ていただきたいと思っています。僕の内側の秘めているところを覗かれたような、全部ではないけど垣間見られたような気がしています。
ー作品を見るとそう思うところはありますね。
そう、写真展ってそうなんですよね。写ってるものもそうだけど、その(撮っている)ヒトを見てしまう。それは自分自身もすごく感じています。
ー自分の肉眼では一生見ることのない、感動的な美しさを作品として見させていただき。それを撮るために写真家がどれだけ苦労しているか、岩合さんのこの50年が大変だったかに思いを馳せつつ、でも楽しんで撮っていらっしゃるなと、今回感じました。
野生動物のビデオ撮影をしているとき、海外の動画のドキュメンタリーのコンテストによく出品していて。カナダやいろいろなところに行き、各国のディレクターやプロデューサーに会って話をしていたとき、フランス人のプロデューサーに「あなたの作品はすごくエモーショナルで、私はすごく好きだ」と言われました。完璧に撮るということは大切かもしれませんが、完璧だと見る側の感情も流れていってしまうような気がして。人間の感情を止めるには、好き嫌いというものが一番大切なことだと感じました。
僕のある写真展で、作品の前で立ち止まってご覧になっている方が、ハンカチを出されて目頭を拭かれているのを見て、心からすごいことだと感じました。このために僕はやってきてるのだと思った瞬間です。
「僕は作品を素晴らしいと言ってもらうよりも、好きだと言ってほしい」
ーこんな大規模な写真展でたくさんの方に見ていただく機会は大切ですね。
そうですね。そしてキヤノンギャラリーSでの展示は、写真家にとって一生に一回しかないからね。(笑)
ー最後になりますが、これからどういった作品を撮られたいかなどお聞きしてもいいでしょうか。
まだまだ僕が行っていない国もたくさんあります。
僕が(野生動物に)詳しいと思ってらっしゃる方が多いのですが、僕にライオンのことは聞かないでくださいといつも言っています。(ライオンは)見れば見るほど未知の部分が膨らんでくることが、僕にとってとても魅力的で、挑戦しがいがあることです。だから必ずしも珍しいことだけでなく、誰もが知っている、知ってしまっているように思う動物、それはネコだと思っています。
ネコを最初に撮り始めた40、50年ぐらい前に写真展をやって、その時に「ネコの写真ね」って言われてしまって、そうですよって返せなかったんです。でも今だったら僕はネコの写真撮ってますって、返せる気がします。世の中の考え方って、変えていくことができると思うのです。
それはネコのテレビ番組を作ってみて、自分自身が感じたこと。ネコの存在自体がすごいことなんだって。生きることの大切さや意味をネコに語ってもらおうと、日々模索しながら番組作りをしています。
ーありがとうございました。
展示写真全て©️Mitsuaki Iwago
写真展「Masai Mara」の開催を記念し、写真展会期中(6月18日~7月30日)の50部限定受注販売の
特装写真集「Masai Mara」(サイン入り)も発売されています。会場のアートディレクションもされた三村漢さんデザインの写真集、購入はこちらから!
【岩合 光昭 写真展 「Masai Mara」】
会期:2024年6月18日 (火) ~7月30日 (火)
会場:キヤノンギャラリー S
住所:東京都港区港南2-16-6 キヤノンSタワー1F
時間:10:00〜17:30
休館日:日曜・祝日
personal.canon.jp/event/photographyexhibition/gallery/iwago-masai
【岩合 光昭 写真展 「What a Wonderful World -この素晴らしき世界-」】
会期:2024年6月18日 (火) ~7月23日 (火)
会場:キヤノンオープンギャラリー1
住所:東京都港区港南2-16-6 キヤノンSタワー2F
時間:10:00〜17:30
休館日:日曜・祝日
personal.canon.jp/event/photographyexhibition/gallery/iwago-wonderful
【岩合 光昭 写真展 「ねこがお」】
会期:2024年6月18日 (火) ~7月23日 (火)
会場:キヤノンオープンギャラリー2
住所:東京都港区港南2-16-6 キヤノンSタワー2F
時間:10:00〜17:30
休館日:日曜・祝日
personal.canon.jp/event/photographyexhibition/gallery/iwago-nekogao
【岩合光昭】official site iwago.jp
岩合光昭 X x.com/lion007