写真という世界を、見る・知る・感じることができる写真集専門店「book obscura」をご紹介

その他 / 2019年12月6日

あたたかい木目調で落ち着いた雰囲気のある入口。

吉祥寺駅から約15分。井の頭公園を越えた住宅街の中に、写真集を中心としたアートブック専門の古書・新刊書店「ブックオブスキュラ(book obscura)」はあります。
旅の本屋さんとして親しまれていた青山の「BOOK 246」(2014年に閉店)の店長を務めていた黒崎さんがオープンさせたこちらのお店。お邪魔してお話を伺ってきました。

写真集の顔が分かるように置かれていて、 気軽に手に取りやすいようになっています。
カメラ好き、写真好き、写真家やデザイン、印刷関連の方が世代を問わず来られているそう。
「出会いの場になりつつあり、世代を超えて会話できる場所でもあるのかな」と黒崎さん。

-「BOOK 246」が閉店してから、お店を始められた経緯など教えてください。

「BOOK 246」は2014年にビルの取り壊しにより閉店が決まったのですが、あのゆったりした時間の流れを感じる空間が大好きで、気づくと何時間も経っていたというぐらい、落ち着く場所でした。あの店に勤めたことで本屋は私の天職だと気づいたので、閉店してしまったことは本当に残念でした。
自分でもお店を始めようと思ったのですが、自分にはまだ修行が足りないな、じゃあ足りないものはなんだろうと考えて、古書を勉強したいと思い、神保町の小宮山書店で修行させてもらいました。
そこで大好きな写真集を専門に3年ほど勉強させてもらい、ようやくこのお店をつくることになりました。

床は印刷会社のときのまま使われているとお聞きしました。
重い印刷機を置いていた場所はコンクリートの補強がされています。
ものづくりの現場から、情報を発信する場所に!ものと人とのつながりを感じます。

-都心ではなくこの場所を選ばれたのは?

違う場所での考えもあったのですが、主人が三鷹出身ということと、これからの人生プランを考えて、自宅から通いやすくご近所付き合いもできるのではないかと思い、三鷹界隈の住宅街で物件探しをしました。
人通りの多い駅前の喧噪の中では、写真展や写真集もゆっくりと見てもらえないだろうという思いもあり、わざわざ井の頭公園を抜けないと行けないというこの物件は、理想通りだと思いました。
また元印刷所だったと聞き、紙をずっと扱っていた場所だから、本もしっくり馴染むだろうとも感じました。

-古書店は目的の本を見つけにくいと思うのですが、書棚を拝見して棚ごとのカテゴリ分けなど、「BOOK 246」を懐かしく思い出しました。

書棚の形や奥行きなどは「BOOK 246」そのままですね。小宮山書店で勤めていたとき、写真集はアルファベット順に並べていたのですが、写真家や写真集の名前を知っていないと見つけづらいなと。また私が写真集に出会った15歳の時に探しづらかったということを思い出したこともあり…。
私は写真集、写真家だけでなく写真史なども研究しているので、この写真家はこの写真集に影響を受けたなど、並べ方だけでお客さまを喜ばせることができますし、人物、風景、スナップなど歴史を辿る棚づくりも意識しています。

同じ作家、同じデザインの写真集でも、刷られた年代や出版社によって違いがありますし、その違いを見つけることは私自身とても楽しみなことです。
お客様に「写真展はライブ会場、写真集はCD音源だ」とお伝えしていて、そのCD音源の材料もちょっとした色の違いで、受け取る私たちの気持ちが変わってきてしまうということも話しています。色の違いを見せることで写真の表現が変化することを、写真家さんやお客様も一緒に考えたり、悩んだりしています。

お店中央の平台では、写真集をじっくり開いて見ることも。
店内で購入したコーヒーを飲みながら、ゆっくり写真集やプリントを見ていかれる方が多いそう。

ー写真集というものを話したり相談できたりする、窓口のような場所ですね。

「プリントしたものを見てください、おすすめの写真集を教えてください」という方もよく来られます。「このプリントだとこの写真集を見るといいですね」とおすすめしたり、自分が見た写真集をすべて覚えているので、「こういう写真を探しています?」という方に、「この写真集のこのページに載っています」とページ単位でのおすすめもしています。お客様に私の中のデータベースを使ってもらっているという感覚ですね。
お店を開いてから「お疲れさま」ではなく「充実さま」という毎日です。

私は(写真集に出会った)15歳の頃から写真集の見方は変わっていません。写真家さんの人生年表を手書きで作り、写真家さんが生まれ育った国の歴史、カメラ、印刷技術の年表という四つの年表を並べた状態で、1ページ1ページをめくっています。

ーすごいですね。写真集と写真家さんへの愛とリスペクトを感じます。

それが楽しくて楽しくて、十何年続けてきました。写真集に恋しているのももちろんですが、この写真を撮っている写真家さんに一目惚れして、どんな人なのだろうと調べつくしてしまいます。

ホワイトの壁紙が貼られているギャラリースペース。
プリントを購入して自宅に持って帰った際にイメージしやすいようにとのこと。

ーお店の壁をすべて書棚にするのではなく、ギャラリースペースをつくられた理由について教えてください。

古書を売っていても作家さんへの還元にはならないなと思って。お店として情報の発信地として、写真家さんへ還元できる方法はと考えて、一つの壁をギャラリーとして無料で貸し出すことと、新刊書籍を扱っています。私一人なのもあり、本の量が多いと管理ができない、探しづらいという問題点もあるので、凝縮してしまった方がいいのではと、この形になっています。

-書店にもいろいろなカラーがあると思いますが、つい集まってくるジャンルはありますか?

私の場合は写真史・写真集を研究しているのでオールジャンルなのですが、好きなのはフォトグラフィーの写真(光と影のはなし)。なので、ヨーロッパの写真が多いと思います。

ヨゼフ・スデックの貴重な写真集 『JOSEF SUDEK』

私にフォトグラフィーの世界を分からせてくれたのが、ヨゼフ・スデックの写真集です。プラハの街並みを撮るのが大好きで、第一次大戦で右腕を失い左腕一本で大判カメラをかつぎ、街の風景や日常を追っています。光を見て影で印象をつける、光画のはじまりを思わせるこの写真たちが大好きです。
この『JOSEF SUDEK』は彼の人生の年表通りに写真が並べられていて、年を重ねていくとページから街並みの写真は消え、静止画になっていきます。これも歴史を辿るとプラハがナチスの占領下になり、自由に外に出て撮ることができなくなったからなのですが、自分の部屋から精力的に光と影を追い続ける姿に感銘を受けました。

笑顔がステキな黒崎さん。
「写真で分からないことや、日常の生活のスピードに疲れたときに来てもらう駆け込み寺のような場所でありたい」とお聞きしたのが印象的でした。

黒崎さんの「『BOOK 246』のあのスローな空間をもう一度取り戻したい」という夢が実現しているお店。右手に書棚、左手にはギャラリースペース。「写真集」と「写真」という二つの文化に一度に浸ることができます。ちょっと散歩に行こうかなという気持ちで、自分の知らなかった素敵な写真との出会いがある、写真好きにはたまらない場所です。

book obscura ブックオブスキュラ
〒181-0001
三鷹市井の頭4-21-5 #103
定休日:火曜/水曜
(土日、祝日営業、火・水曜日が祝日の場合翌日が定休日)
営業時間:12:00~20:00
https://bookobscura.com/

店内の無断撮影はご遠慮くださいとのこと。
https://bookobscura.com/news/5d624d138e6919454c62721e