瀬野 芙美香 写真展「神々の集う村 ―共生する民族と宗教―」

レポート / 2017年9月15日

若手女性写真家が見た、多様な人々が集い共生する世界!

きっかけは学生時代にNPOのボランティア活動でスリランカを訪れたことだと話す瀬野芙美香さん。写真家として活動を始めるようになり、自身の撮影テーマとしてスリランカの村を取り上げました。
スリランカは民族問題による内戦が26年間続き、多くの人々が犠牲になった多民族国家です。2009年に内戦は終結しましたが、インフラの復興などのハード面、民族間の感情といったソフト面など、さまざまな課題が残っています。瀬野さんが取材する村は、内戦地からそう離れていない場所に立地する小さな漁村です。

いまだにタミル人は肩身の狭い思いをしているのだと瀬野さん。「タミル人の人たちが村から一歩出ると、警察が身分証の提示を求めてくるんです。警察などの要職に就けるのはシンハラ人だけなので、そうした時にタミル人の人たちはシンハラ語で答えないといけないんですね」。写真はかつて幼稚園だった建物で、今は村の集会所になっている。DMに使われている黒板の前に立つ女の子は、この建物内で撮影したそう。

「私が撮影で訪れたアンマトータム村には、シンハラ語を話すシンハラ人と、タミル語を話すタミル人が隣り合って暮らしています。信仰している宗教もイスラム教・ヒンドゥー教・キリスト教とさまざまで、教会とお寺が隣接しているんですね。日本人の私には不思議な感覚でした。民族や信仰の壁を越えて、どうして一緒に住めるのだろうと」

瀬野さんは何度も現地へ通い、村の若い夫婦の家にホームステイしながら人々の姿を撮影してきました。会場に所狭しと展示されている作品には、タミル人の家に居候しているシンハラ人の母子や、村人総出で行事の準備をする姿、こどもたちに案内されて撮影に行った結婚式の様子など、民族の壁を越え、お互いに尊重し合って暮らす村の人々の姿が表現されています。
しかし一歩村を出ると、タミル人の人たちは肩身の狭い思いをすることが多いのだそう。内戦は終わっても、まだ心のどこかで差別的な感覚が残っているのだと、瀬野さんは教えてくれました。

「私はどちらの立場でもなく、一歩引いたところから写真を撮るようにしています。そうすることで、普段は声が届かない少数派の人たちが、日常の中でどう考えて過ごしているのかが見えてくるんです。戦争や争いごとが多い昨今、平和や共生のためには相手の国について知ることが第一だと考えています。作品を通して、こういう村もあることを知ってもらえればうれしいです」

引き続きこの村を撮影しつつ、今後は別の村も取材してみたいと今後の抱負を語ってくれました。若手写真家として活動する瀬野さんの思いに興味を持たれた方、スリランカや多民族の共生について気になった方は、ぜひ会場へ足をお運びください。

作品はすべてフィルムで撮影。1回の滞在で100本ほど持っていき、なるべくいろんなシーンを残すようにしているのだそう。展示作品を見ていると、村の風景や人々のことを思い出し、また行きたくなるのだと、話してくれました。

作品には一つひとつ瀬野さんの説明が付けられていて、村人たちとの交流の様子が垣間見えます。

【瀬野 芙美香 写真展「神々の集う村 ―共生する民族と宗教―」】
会期:2017年9月13日(水)~9月19日(火)
10:30~18:30(最終日は15:00まで)
会場:銀座ニコンサロン(日曜休館)
写真展情報