~感情を昇華させることで、新たな視点をもたらす写真展~
No,44さん 写真展「stereotype」が、12月28日(月)まで恵比寿駅より徒歩5分ほどのところにあるAmerica-Bashi Galleryで開催されています。多摩美術大学でテキスタイルデザインを専攻後、写真家 青山裕企氏に師事された、No,44さん。ライフスタイルに関する情報サイト「FASHION PRESS」でストリートスナップを担当した経歴を持ち、ポートレート撮影を得意とされています。
本展は新作「stereotype」に加え、卒業制作作品「生け花」をはじめとする作品群で構成されています。またそれら制作の背景には、日常に潜む「違和感」があったとNo,44さんはいいます。写真を介して自身の感情と向き合うことで得た気付きについて、お話を伺いました。
「美しさの基準」から外れると幸せになれない?
――本作はタイトルにもある通り、「ステレオタイプ」(※1)という概念をテーマに制作されたそうですね。その経緯をお聞かせください。
日常の中で感じる些細な「違和感」が、本作制作のきっかけとなりました。例えば、自粛期間中にYouTubeで頻繫に目にした、痩せるサプリや脱毛サロンの広告。それらに共通する点は、外見にコンプレックスのある女性が登場しサプリやサービスを利用することで「美」と「幸せ」を手に入れるという物語。つまり、痩せていることやつるつるな肌が「美しさの基準」とされているのですね。たとえ本人がふくよかな体型を気に入っていたとしても、「美しさの基準」から外れていると幸せは掴めないという物語の在り方に「違和感」を抱きました。そこで本作では、写真を通してそんな「違和感」を表現してみようと思ったのです。
自分が囚われているということに気付かない金魚は、
外の世界を認識することすら出来ない。
――なるほど。では、その「違和感」をどのように作品に落とし込まれたのでしょうか?
金魚を主観、女性を客観、撮影者の視点をそれらを見つめる第三者という位置づけで制作しました。またそれぞれの立場を明確化するために、「無機質」な空間を意図的に作り出しました。そこで、金魚や女性といった生きものを「物体」として表現するために、女性はヌードで撮影しました。どちらも対等な立場として写し出すことで、より「フラット」にテーマをとらえることが可能になります。
そして、金魚のカプセルは「固定概念」を暗喩しています。小さなカプセルの外には広い世界が広がっているのに、自分が囚われているということに気付かない金魚は外の世界を認識することすら出来ません。本作が意図するところは、ある視点から見たとき私たちはカプセルの中の金魚かもしれませんし、別の視点では女性の側かもしれないということ。またそれは、渦中にいる時にはなかなか気付けませんが、客観的な視点を手に入れることで見えてくる部分だと思います。
――それは私たちの日常生活にも通じる考え方ですね。
世の中が作り出した「固定概念」という枠組みに、無意識のうちに囚われている可能性があるという点では同様ですね。そういった日本社会の在り方に私自身、息苦しさを感じることがあります。例えば、「ベティちゃん」(※2)というキャラクターのファッションが可愛くて好きなのですが、私の体型がわりとグラマーなこともあり、日本で彼女のような恰好をしていると性的な視線に晒されることが多々あります。その背景には、グラマー体型の人は性的な関心が強いといった「固定概念」があるように思えてなりません。自由にファッションを楽しみたくても、「固定概念」が足枷になっているのですね。
だからこそ作品は、先入観なく観てほしいという想いがあります。「女性の作品だから」「女性が大きなカメラを持って頑張っているから」といった観点で作品を判断されたくないのです。なので極力、名前や顔、性別を明かしていません。
――だから「No,44」という作家名で活動されているのですね。
そうなんです。またこの作家名には現代社会への皮肉も込めています。人間に番号をつけて管理するのはかつては刑務所くらいでしたが、現在の日本社会ではマイナンバー制度が導入され政府主導による監視社会へと進みつつあります。また様々な観念に縛られて生きる私たちは、世の中という大きな枠組みに囚われているのではないかという問題提起も含め、番号的な名前を使用しているのです。
消費される人気作品よりも、
忘れられない作品を作り出したい。
――なるほど、「固定概念」に左右されてしまうことへのフラストレーションが作品制作の根底にあるのですね。そういった要素は、「stereotype」以外の作品からも見出されるように感じました。
負の要素から作品制作に取り組みはじめたのは卒業制作作品の「生け花」が初めてでした。それ以前は負の要素から作品を作ることに対し、どこか後ろめたさを感じていたのです。普段の私は明るい性格で通っているので、そのギャップに恥じらいがあったのかもしれません(笑) ですが「生け花」制作をきっかけに、自身の主張を素直に作品に落とし込めるようになりました。それからやっと自分らしい制作パターンを習得できた気がします。
正の要素から制作された作品は鑑賞する側も心地良いので人気を得やすいですが、心地良い刺激が心に深く残り続けることは難しい。しかも、人気が出ると類似作品が台頭してくるので、その作品性も消費対象と見なされてしまいます。では、鑑賞者の記憶に残る作品とは何か。それは鑑賞者の感情をより強く揺さぶる作品だと思います。その点、「負の感情」は大きなパワーを秘めています。
――最後に今後の作家活動への展望をお聞かせください。
鑑賞者をハッとさせるような写真を撮り続けていきたいです。世の中には人の数だけ多様な視点がありますが、それらを普段から意識することは難しい。私自身、美大在学中に様々な個性を持つ友人たちと触れ合う中で、凝り固まった主観で物事をとらえていた自分自身に何度も気付かされました。つまり「違い」と触れ合った経験が、新たな視点を手に入れるきっかけとなったのですね。個性がマイナスにとらえられる同質的な社会では、活発な意見交換は生まれませんし、とても平坦な世界になってしまうと思います。だからこそ作品制作を通して、鑑賞者が思考を巡らせるきっかけを作り出したいのです。そのためにも、多くの人に作品を見ていただけるだけの力をつけることが当面の目標です!
■No,44さんは、写真と物語を組み合わせた作品シリーズ「監禁少年」にも取り組まれています。写真、ディレクションはNo,44さんが担当し、物語の作家陣は毎月変わります。今月で完結を迎えたそうですが、今後もショートムービーの制作などに取り組まれる予定とのこと!詳細はこちらからぜひチェックしてみてください♪
※1「ステレオタイプ」:多くの人に浸透している固定観念、先入観、思い込み、認識、レッテル、偏見などの類型化された観念を指す用語。例えば国籍・宗教・性別など、特定の属性を持つ人に対して付与される単純化されたイメージがそれに該当する。アメリカの著作家・政治評論家であるウォルター・リップマンによって提唱された概念。(ステートメントより引用)
※2「ベティちゃん」:正式名はベティ・ブープ(英語: Betty Boop)。マックス・フライシャーにより制作され、パラマウント映画から配給された一群のアニメーション映画に登場する、架空の少女キャラクターである。(Wikipediaより引用)
【No,44 写真展「stereotype」】
会場: America-Bashi Gallery
会期:2020年12月23日(水) 〜 2020年12月28日(月)
11:00〜19:00(最終日は17:00まで)
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