京都写真美術館 ギャラリー・ジャパネスク 2階展示室にて、2025年4月29日(火)から5月11日(日)まで、戸田沙也加 個展「Voice of Silence」を開催します。
彫刻家が生涯をかけて制作し続けた裸婦像。そのアトリエは、今まさに静かに終焉を迎えようとしています。
本展に込めた想いや、写真という表現について、戸田沙也加さんにお話を伺いました。

Q. 今回の展示「Voice of Silence」に込めた思いを教えてください。
8年前、知り合いの彫刻家のお父様のアトリエを初めて訪れたとき、300体以上の裸婦像が残されている光景に衝撃を受けました。
まるで時間が止まったかのようなその空間では、現代美術の中で見られるような「裸婦像=美の象徴」という概念が、静かに終焉を迎えているように感じたんです。
当初は作品として発表するつもりもなく、ただ記録を残したいという思いで通っていました。
でも、周囲の建物が取り壊され、アトリエだけが草木に覆われ、飲み込まれるように存在している光景を目にしたとき、「この姿を作品として残したい」と思いました。

Q. 写真という表現に惹かれる理由は何ですか?
絵画は私の中で表現したいテーマをイメージに近づけるのに一番適しているメディウムなので、たくさん撮影して気に入った構図や瞬間というものをどんどん撮り溜めていくことによってイメージに近づける作業だったのです。しかし、その資料的な位置付けの写真を見たアート関係者の方々に、「面白い写真を撮るね」と言われるようになりました。
写真も絵画と同じように、過去の記憶や体験が浮かび上がる表現手段だと気づきました。特にフィルムカメラは、現像されて初めて像が浮かび上がるじゃないですか。
あのプロセスが、絵を描く感覚とすごく似ていて魅力を感じます。
今回は一点を除き、すべてフィルムカメラで撮影しています。

写真フォルダを眺めていた時に「ビーナスと裸婦像が会話しているように見えた」という偶然の発見から選ばれた。
Q. 「美しさと醜さ」というテーマ性が感じられますが、その原点はどこにありますか?
高校から大学院まで、ずっと女子校で過ごしていたことが大きいかもしれません。
男性をどこか遠くて不思議な存在のように感じていて、そこから「男性性・女性性・両義性」みたいなものに自然と関心が向いていきました。
身体的な特徴はあっても、性というのは案外紙一重のもので、そこから人間の中にある美しさと醜さへの興味にもつながっていった気がします。



Q. 展示のセレクトや配置には、どのような意図があるのでしょうか?
今回の展示は「アトリエの内と外」を交互に行き来するような構成にしています。
植物に覆われた屋外の風景と、彫刻が眠る室内空間。
観る人が往復できるような感覚を味わってもらえたらと思っています。


Q. 今回の展示を見に来た方に、どんなことを感じてほしいですか?
裸婦像を単に“美しい”と感じるだけでなく、なぜこのような裸婦像が作られ、そして今、こうして静かに忘れ去られようとしているのか。
その歴史的な背景や、男性と女性の役割、時代の変化などにも少しだけ思いを馳せてもらえたら嬉しいです。

ステートメント
行政による区画整理により、テラコッタの裸婦像を生涯にわたり作り続けた物故作家のアトリエがもう間も無く解体される。19世紀後半に西洋の美的概念が輸入され、日本の芸術家たちは西洋に倣い、女性の裸体を人間性を抜き去った肉体の美の集積として表現することを受け入れた。
主が不在となったアトリエを埋め尽くす夥しい数の名もなき裸婦像は、仄暗い北窓の外光に照らされながら、アトリエが解体されるその時を静かに待つ。裸婦が美の象徴として崇拝されていた時代が終わりを迎え、解放された肉体として現存する女性たちの語られることのない言葉なき声に耳を傾ける。
戸田沙也加
【戸田沙也加 個展「Voice of Silence」】
会場:京都写真美術館 ギャラリー・ジャパネスク 2階
会期:2025年4月29日(火)~5月11日(日)11:00~18:00
無休/入場無料
URL:https://kyoto-muse.jp/exhibition/182090
※本展は「KYOTOGRAPHIE 京都国際写真祭」のサテライトイベントKG+ 2025に参加しています
【戸田さんSNS】
Webサイト:https://www.sayakatoda.com/
Instagram:https://www.instagram.com/sayakatoda_artwork/?hl=ja
Facebook:https://www.facebook.com/sayaka.toda.5
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