高知県高岡郡中土佐町久礼
産業編集センター 出版部
2024/04/14 ~ 2024/05/12
高知県高岡郡中土佐町久礼
【旅ブックスONLINE 写真紀行】
産業編集センター出版部が刊行する写真紀行各シリーズの取材で訪れた、全国津々浦々の風景を紹介しています。
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純朴で豪放な海の男たちが生きた、漫画『土佐の一本釣り』の舞台
中土佐町の久礼は、須崎市の南、太平洋沿岸部の土佐湾が大きく湾入したリアス海岸の、入江と山の間のわずかな平地に開けた町である。久礼の港は、中世から近世にかけて、四万十川流域を中心とした各地から集められた物資を関西方面に搬出する重要な港の一つとして発展してきた。
メインストリートの本町商店街通りは、昔は久礼の銀座通りと呼ばれていたそうで、帰港した漁師たちが気前よく金を使い、いつもにぎわっていたという。高知県最古の酒造メーカーである西岡酒造店(1781年創業)もここにある。現在は人通りも少なく寂しいが、通り沿いには伝統的な建築様式の古い家屋が建ち並ぶ。海のそばなのに土佐漆喰を塗り込め、水切り瓦を用い、虫籠窓を備えた建造物が多いのは、かつて上方との交易が盛んだった証だろう。
ところで、土佐久礼の港といえば、ああ、あの漫画の、と思い出す方も多いのではないだろうか。そう、ここを全国的に有名にしたのは、高知出身の漫画家・青柳裕介が、『ビッグコミック』に1975年から16年の長きにわたって連載した人気漫画
『土佐の一本釣り』である。
この漫画は久礼の町を舞台に、中学を卒業してカツオ船に乗った純平という少年が、土佐の海とそこに生きる荒くれた男たちに揉まれながら一人前の漁師になっていく姿を描いたもので、高知の田舎の小さな漁村で暮らす人々の、素朴で純粋で豪放磊落な生き方とその風土が実に魅力的に描かれ、人気を博した。1980年と2014年の2回、映画化もされている。
興味深い話がある。青柳裕介はこの連載を始めた頃から中土佐町に部屋を借り、久礼の漁師たちと酒を酌み交わし、時にはケンカもするなど、彼らの生活に溶け込んで、その日々を漫画の世界に投影していたという。だから地元の漁師に言わせれば『土佐の一本釣り』は半分はノンフィクションだとのことだ。(日本埋立浚渫協会「名作が生まれた港」より)
ここが、あの純平が泣き、笑い、懸命に生きた場所だと思って眺めると、町の風景もまた違ったものに見えてきて感慨深い。もう一つ、久礼には近隣各地から観光客が訪れるという名物市場「久礼大正町市場」がある。ここについては次項のコラムで紹介しているのでごらんいただきたい。
※『ふるさと再発見の旅 四国』産業編集センター/編 より抜粋