写真×盆栽 二人展「松・美・心」

レポート / 2019年1月11日

~日本の伝統・能楽に見立てた抽象写真と、福島・吾妻山の自然を見立てた盆栽の共演~

左が写真家の江口敬さん。右がぼんさいや「あべ」三代目の阿部大樹さん。2014年に江口さんが阿部さんの展示を見に行ったのが交流のきっかけだそう。以来、年に数回の交流を続けながら、お互いの感性を刺激し高め合ってきたと言います。

会場に入ってまず目に止まるのが、アシンメトリーに力強い曲線を描く大きな吾妻五葉松の盆栽です。福島・吾妻山に自生する五葉松の景色を手本に作り上げた「空間有美」という作風の盆栽は、老舗ぼんさいや「あべ」三代目の阿部大樹さんが初代から受け継いだもの。盆栽アートとして東京で展示するのは初めてだそうです。

盆栽と並び強烈な印象をもたらすのは、飛行機雲を写したシンプルな構図の写真を能楽作品に見立てた写真作品です。写真家・江口敬さんならではの鮮やかな色彩を使った作品は、「道成寺」「松風」「巴」「高砂」など能楽タイトルが加わることで、見る人の想像力をさらに掻き立てます。

左の作品は「道成寺」。燃え盛る女の情念と泰然とした松の対比が感情を揺さぶります。右は「翁」。松越しに見る曇りのない夜空に煌々と輝く月のようにも、融和や穏やかさの象徴のようにも見えます。同じ盆栽でも、写真との組み合わせで全く異なる世界やイメージを受けるのが面白い。

「松風」の姉妹を表現した作品。海面を覆う霧のようにも、姉妹の亡霊が海上に佇んでいるようにも見える抽象的な作品。間に聳える松が、海風に揺れる墓標のよう。

「能楽は日本文化の集大成です。〈高砂〉という言葉一つで、人のイメージは広がるように、日本の表現として昔からある抽象美を目指し、シンプルでいて想像力の広がる作品づくりをしています。盆栽と合わせることで、僕の理想としている世界がより表現できたと思います」

盆栽の松越しに見える4パターンの景色は、左から「鉄輪」「高砂」「竹生島」「巴」。

学生時代に能楽サークルにいた経験が、和のものに対する思考につながっているのだと江口さん。背景に自然や風景を見立てる盆栽アートと、風景を能楽世界に見立てた写真作品という、「見立てる」という共通のテーマを持った作品は、どちらも主役でありながらお互いに新しい見方や世界といった魅力を引き出しているのが特徴です。

三代目阿部さんが種一粒から育てた盆栽。「むやみに売ってはならぬ」との初代の教えに従い、きちんと盆栽を手入れできる人限定で、会場にて特別販売しています。阿部さんが初代から受け継いだ「空間有美」に基づく作風は、海外で「ABE STYLE」と呼ばれるほど人気が高い。盆栽展を開く他、国内外でワークショップや盆栽指導などを行っているそうです。

「色合いや線が印象深い江口さんの作品と合わせることで、既存の盆栽の見たて方とは違う新しい世界を表現できると考えました。実際に会場でお互いの作品を合わせてみて、やっぱり合うなと! 一緒に飾れることが幸せです。愛好家以外の方にも盆栽を見ていただき、その背後にある景色を想像していただけると嬉しいです」と阿部さん。

源氏と平氏、黄金色と紫檀色という対極が表現されています。「展示に合わせて色の対比も意識しました」と江口さん。対極のものが並ぶことで想像世界が広がります。使っている色も、日本の伝統色を意識しているそうです。
また、盆栽に光を当てないことで五葉松の形状や存在感がくっきりと浮かび上がっています。これも、江口さんの写真作品と合わせることでできる、新しい盆栽の見方です。

極限まで抽象化することで能楽世界を作り出した写真作品と、力強い曲線を描きながら風雨の中で根を張る自然樹に見立てた盆栽のコラボレーションを見に、ぜひ会場へ足をお運びください。

会場中央に置かれた盆栽の寄せ植え。盆栽アートの表現力の高さに感動します。

本日1月11日(金)15:00から同会場にて、阿部さんによる「吾妻五葉松盆栽作りのデモンストレーション」が行われます。先着20名とのことで、ご都合のつく方は要予約の上、来場ください。

【写真×盆栽 二人展「松・美・心」】
会期:2019年1月10日(木)~1月 12日(土)
10:30~18: 30(最終日は17:00まで)
会場:Art Gallery M84
http://artgallery-m84.com/?p=5490

写真家・江口敬さんのWebサイト
http://eguchitakashi.wixsite.com/photography

ぼんさいや「あべ」のWebサイト
https://peach-bornsai.wixsite.com/kukanyubi