塩田 亮吾 写真展「Arsenic」

レポート / 2017年6月21日

真っ先に目に飛び込んでくるのは大きくプリントされた「手のひら」と「足の裏」の作品。大小さまざまなシミや水泡は、近年、社会問題となっているバングラデシュの地下水ヒ素汚染で健康被害を受けた人々のもの。
塩田亮吾さんは2009年からバングラデシュの地下水ヒ素汚染問題を個人的なプロジェクトに定めて何度も現地の村へ足を運び、寝食を共にしながら取材・撮影を続けてきたドキュメンタリー・フォトグラファーの一人。

「バングラデシュを訪問したときに、井戸のポンプ部分が赤く塗られているのは『ヒ素』に汚染されているしるしであることを知って衝撃を受けたのがきっかけです。先輩フォトグラファーからの『本当に知られていないから、絶対にやるべきだよ』の言葉に後押しされ、以来6年以上バングラデシュを訪れ、何枚も何枚も記録してきました」。

塩田さんは現地の人々と同じ水を飲み同じモノを食べ、そして、生きるために「ヒ素」に汚染された水や食物を食べざるを得ないバングラデシュの人々の思いに耳を傾けてきました。どこかの誰かという非現実な世界の出来事ではない。この人たちは何を考え、どのような思いで「ヒ素」に汚染された水や食物を食べているのか。そうした現実について考えさせられる展示です。
そのため、健康被害がひと目で分かるセンセーショナルな作品だけではなく、もの言いたげな瞳をした人物のポートレートも並んでいます。

「僕が大切にしているのは『人の尊厳』です。撮られたい人は一人もいません。にも関わらず、僕を家族の一員のように迎えて協力してくれた彼らのために、きちんと発表していく責任があると考えています」。

なるほど。改めて十数点の作品に目を向けると、バングラデシュに生きる人々の魂の叫びが聞こえてくる気がしました。

【塩田 亮吾 写真展「Arsenic」】
会期:2017年6月20日(火)~26日(月)
10:30〜18:30(最終日は15:00まで)
会場:ニコンサロンbis新宿
※7月27日(木)〜8月2日(水):大阪ニコンサロン