本多 智行 写真展「HEREAFTER―fragments of the event horizon」

レポート / 2017年7月28日

時間を可視化し、街に溢れるエネルギーの欠片を捉えた作品!

ブラックホールの「事象の地平面」について熱く語る本多さん

「America-Bashi Gallery」は、東京・恵比寿のアメリカ橋にほど近い路地裏に建つレンタルギャラリーです。一面ガラス張りになった1階と半地下の2部屋からなる広い展示スペースに、大判プリントされた本多智行さんの作品10点が並びます。
大学で写真を学び、広告撮影などで活躍している本多さんが、自らのライフワークの一つとして都市の夜景を撮影し始めたのは8年前。テーマや撮影手法を模索する中、3分間の長時間露光で撮影することで一定の時間の経過を同一の面上に収めるという現在の表現に辿り着きました。

4×5のフィルムカメラを使い、長時間露光で都市の夜景を切り取る表現はすでに確立された手法ではあるものの、本多さんの作品は「綺麗な夜景」という表現だけでは表わせない不思議なエネルギーに満ちているように感じます。
それもそのはず。本多さんが撮影するのは交差点や駅のホームなど都市の中でも特に多くの人が行き交うスポット。それを、日常で誰もが見ているのと同じ目線の高さで撮影することにこだわっているそうです。

愛用の4×5カメラ

「東京やロンドンなど大都市の中でも数多の人や車の行き交う場所は、エネルギーが集まる特別なスポットです。肉眼では見えないけれど、僕たちの目の前にはいくつもの状態や時間の流れが人の数だけある。その断片をフィルムに収めることで、エネルギーや時間を可視化したいと考えました」。

作品づくりのヒントとなったのは、10代の頃から興味のあった宇宙や物理の世界です。好奇心の延長で、宇宙や物理に関する本やテレビのドキュメンタリー番組を見るようになったのだとか。
写真展の副題にある「event horizon」とは、ブラックホールの周りにある「事象の地平面」のこと。光さえも吸収するほど強力な重力を持つブラックホールの周りには、その影響が及ぶギリギリの境界があり「事象の地平面」と呼ぶのだそう。そこは重力に吸収されることはなく、同時に重力の影響から抜け出すこともできない、力が均衡した特別な場所だと本多さんは言います。

「事象の地平面には、この世が誕生して以来の過去から現在までの全ての出来事が光の状態で捕らわれていると考えられます。それを知った時に、写真との相似性に気づいたんですね。僕の表現したい世界はまさに、一定の時間の経過を同一の画面上に収めた、事象の地平面の欠片(かけら)です」。

視点を変えると、普段見ているものが違って見えます。実際に、遠くから作品全体を眺めるだけでなく、近寄ってディテールまで細かく見ると、立ち止まっている人がはっきりと写っていたり、画面内をさっと通り過ぎた人々が残像となって写っていたりと、様々な時間の流れが併存していることに気づくはず。

ちなみに、撮影は冬期限定で、夕方17時から19時がベストタイムなのだとか。会場には、何年もかけて撮りためてきた中から厳選された10点が並びます。
一方で、作品を見た人が自由に感じて楽しんでもらえることが一番うれしい。その上で、物理や宇宙に興味を持った方は、ぜひ声をかけてくださいと、話してくれました。
本多さんの作品を見て時間やエネルギーを実感してみたい方、物理や宇宙の話を聞いてみたい方は、ぜひ会場に足をお運びください。土日は在廊されているとのことです。

【本多 智行 写真展「HEREAFTER―fragments of the event horizon」】
会期:2017年7月26日(水)〜8月14日(月)
12:00〜19:00(最終日は17:00まで)
会場:America-Bashi Gallery
http://americabashigallery.com/