井津 由美子 写真展「ICARUS」

レポート / 2017年9月16日

プラチナ・プリントとフォトグラムで表現された静物の記憶!

新作の「ICARUS」シリーズはギャラリーB1階に展示。カフェスペースがあり、じっくり作品を見ることができます。

米・ブルックス大学で写真を学び、NY在住の女性フォトアーティストとして活躍する井津由美子さん。多くのアーティストが集まる地で刺激を受け、写真表現の自由さに目覚めたそう。現在生活しているハドソン川沿いは自然豊かな環境で、さまざまなインスピレーションを受けるのだそう。
その一つが「ICARUS」シリーズのモチーフとなっている鳥の巣や羽根です。森の中にぽつんと残った鳥の巣や羽根を見ていると、かつて存在した命の営みが迫ってくるのだと、井津さんは話します。

「私が表現したいのは、静物がもつ記憶の残滓です。巣の中で卵が孵り、雛が育ち、中には死んでしまった雛もいて…。そうした生と死の記憶が、かすかな囁きとしてモノに残っているんです。それはあやふやなもので、都会に生活しているとわからないものかもしれません。しかし、目に見えない世界をすくい取って表現するのが作家だと、私は考えています。そのために、常に心をオープンにしています」

井津さんの作品に共通しているのはメタファー(隠喩)です。より自身のイメージを表現するため、井津さんは11×14インチの大型カメラとフォトグラムの2つの手法を用いて作品を撮り、プラチナ印画紙づくりから画像の定着まですべて手づくりすることで繊細な作品世界を実現させています。

「自分の心の声を聞き、鳥の巣を撮りたいなというところからスタート。その時は何も決まっていません。鳥の巣を撮って壁に掛けて毎日見ていると、“違う”と感じる。そうすると別の方法を試していく。自分が見続けることができるまで、それの繰り返しです」

自分の中にあるイメージが、1つのシリーズとして形になるまでは3〜5年かかるのだと話す井津さん。大切にしているのは「アーティストは誰にも替わりのいない特別な存在。自分が形にしない限り、誰もそのアイデアやプロジェクトを見ることができない」という恩師の言葉だそう。

「写真展にあわせて数日前に帰国したばかりのため、まだ少し時差が残ってるんですよね」と話す井津さん。作品づくりは暗室の中でアクロバティックな動きをするのだと身ぶり手ぶりを交えて教えてくれました。

井津さんの作品をじっと見ていると、プラチナ・プリントの特性である無限の階調が、被写体のもつ寂寞とした記憶を訴えかけてくる気がします。

今回の写真展は、昨年末に欧米で出版され人気を博している写真集「Resonance」の記念企画の一環。会場にはフラワー・ポートレートの「Secret Garden」シリーズから未発表作約15点と、鳥の巣や羽根をテーマにした新作「ICARUS」シリーズの作品約25点が展示されています。

海外での評価の高いアーティスティックな作品に興味のある方、プラチナ・プリントが生み出す美しい色の階調が気になる方は、ぜひ足をお運びください。

【井津 由美子 写真展「ICARUS」】
会期:2017年9月13日(水)~11月18日(土)
11:00~19:00
会場:gallery bauhaus(日・月・祝日休館)
http://www.gallery-bauhaus.com/170913_izu.html

井津由美子オフィシャルサイト
http://www.yumikoizu.com/