村上 慎二 写真展「勝手な巡礼散歩・野にあるように」

レポート / 2018年12月26日

~旧街道を彩る春の光を集めたピンホール作品~

会場にて村上さん。 「1986年に栃木の『現代美術になった写真』展でピンホール作家の山中信夫さんの作品を見て衝撃をうけ、翌年には自分でもカメラのレンズを外して撮影したラージホールの作品を出展しました。レンズを外すことで対象との距離感が判然としなくなるのが面白くて。そこからレンズをつけてはっきりしない作品を撮るようになり、徐々にモノを映しこんでいきました」。カメラの箱に興味があったという村上さん。ルナミ画廊での展示作品について、写真評論家の飯沢耕太郎さんが著書『写真の現在』にて評しています。

桜の咲き初める春、愛用のピンホールカメラと三脚を抱え、神奈川・相模原の無量光寺から藤沢の遊行寺を結ぶ古道約30kmを散策しながらスナップ撮影を試みる。

写真家の村上慎二さんが「勝手に巡礼散歩」と題したこのシリーズを始めたのは2011年からだと言います。二つの寺院を結ぶこの街道は、道祖神や祠など遺跡や史跡が数多く残る一方で、そばには米軍キャンプ地があり米軍機の轟音が響き渡る、古代と現代が複雑に絡まっている土地です。

相模原から藤沢を結ぶ旧街道をテーマにしたこの作品シリーズを作るようになったのは、「藤沢今昔まちなかアートめぐり」への出展がきっかけ。藤沢に関する作品づくりをと調べる中で旧街道の存在を知ったそうです。ロール紙出力で作品が連なった表現は映画フィルムのコマ送りのようにも見え、散策するゆったりとした時の流れを感じます。

「いくつかの目的地を決めたら後は自由。陽光に導かれるように歩きながら、気になった光をピンホールカメラで撮影します。立ち止まって丁寧に撮影することができ、デジタルではくっきり出過ぎて切り捨てられてしまう微妙なニュアンスを表現できるのが特徴ですね。懐古というわけではないですが、デジタル時代に逆らった表現が面白いと思っています(笑)」

写真左の作品は、座間神社の裏手にある米軍キャンプ内の桜だそう。中央に向かう光の楕円が集中線のような効果を出し、桜に向かって吸い込まれそうな印象を受けます。

藤沢・湘南台の引地川沿いの桜並木など。桜が咲き始める2018年3月25日から6日間かけて歩き、この場所を歩く頃にはほぼ満開になったと、村上さん。

1日1日と寒くなる年末に、ピンホールへ集まった柔らかい春光と桜花を見て、明るい気持ちで来年を迎えるのもいいんじゃない、と話す村上さん。会場に展示されているのは、ロール紙出力された作品36点です。ほぼ南下する進路のため逆光をとらえた作品が多く、街を彩る花々が春の訪れに蕾を綻ばせる様子を眺めながら、旧街道をのんびり遊行している気持ちにさせてくれます。

年末の忙しい時期にちょっと一息つきに、また中心に向かって流れるような楕円の光が特徴なピンホール作品を観に、ぜひ会場へ足をお運びください。

村上さんがスナップ撮影をしながら歩いた道のり約30kmを記したマップ。

【村上 慎二写真展「勝手な巡礼散歩・野にあるように」】
会期:2018年12月24日(月)~12月30日(日)
12:00~19:00(最終日は17:00まで)
会場:トキ・アートスペース(水曜休廊)
http://tokiart.life.coocan.jp/2018/181224.html