篠田 優 写真展「See/Sea」

レポート / 2017年10月19日

戦跡から見る海の風景に、昔の人との接点を見出す!

一番好きな作品の前で。写真右は、神奈川・逗子の小坪マリーナで見つけた戦跡。「日常の中にふとあるもの。自分がそういう場所に身を置くことで、かつて戦争時にそこに立って海を見ていた人の感覚を想像することができるんです。接点ができる」と話す篠田さん。

――暗い岩穴の中と明るい海のコントラストが印象的な作品ですね。

篠田「この岩穴は洞窟陣地です。撮影のために海辺を歩いている時に、岩壁にある人工的な四角い穴を見つけたんですね。何だろうと入ってみたら、いつも撮影で使っている4×5カメラから被写体を覗く感覚と似ていた。後から狙撃用の陣地だったことを知り、自分の身近な場所にある戦争の痕跡に興味を持ちました。江戸時代から重要な海防だった三浦半島〜房総半島を巡り、戦争の痕跡が残る場所を撮影しました」

——なぜ戦争の痕跡に興味を?

篠田「同じ頃に祖母が亡くなったことが影響しています。僕にとって戦争は文字でしか知らない遠い世界。戦争を体験した祖母とは何か隔たりがある気がしていました。しかし洞窟陣地に身を置き、暗い穴越しに明るい海を見ていると、戦時中この場から海を見ていた人たちの感覚を少しでも得られる気がしたんですね。海の風景を通して接点を見出すことができるんじゃないか、これまで遠い存在だった人たちと距離を近づけられるんじゃないかと考えました」

——海を望む風景の中に、歴史や時間の概念が入っているんですね。

篠田「そうです。今の自分の日常があるのは、過去からの歴史や時間の積み重ねがあるからこそ。切り離せるものではないですね。少なくとも自分は、撮影で歩きながら歴史や時間を想像するようになりました。写真を通して、海を写す僕の視線と、僕の作品越しに海を見る人の視線、それからかつてその場所から海を見ていた人の視線が重なる。時間が積み重なった深みのある場所だと思います」

——ありがとうございました。

会場には40点の作品が展示されています。一見しただけでは戦跡を感じることはないかもしれません。しかし、長時間露光で岩肌を映し出した作品も、遠くまで見晴れた海を写した作品も、その地の歴史やかつて同じ場所から海を望んだ人の記憶などが切り取られています。
篠田さんの作品に興味のある方は、ぜひ足をお運びください。

神奈川・横須賀にある荒崎公園から見た海。「展望台など眺望の良い場所って、実は砲台など歴史的に見ると戦いの記憶を持っている土地であることが多いんです。でも近年はそういう場所の宅地開発などが進んでいて、モノとしての痕跡はほぼ残っていません。一方で、そこから見た景色というのは昔も今も同じ。それを撮り続けたい」と篠田さん。

多くのお客様が来廊し、篠田さんの作品にじっと目を向けていました。ギャラリー内には篠田さんの思いを綴ったステイトメントも置かれているので、言葉と写真の両面から作品を楽しめます。

【篠田 優 写真展「See/Sea」】
会期:2017年10月18日(水)~10月24日(火)
10:30~18:30(最終日は15:00まで)
会場:銀座ニコンサロン(日曜休館)
http://www.nikon-image.com/…/sa…/events/201706/20171018.html